第56話
新選組屯所-
総司の部屋へ、外科医の東が訪れている。
東「面目ない!」
東は総司の部屋へ入るなり、そう言って頭を下げたのであった。
東は朝方まで島原にいた。いい気分で診療所に帰ったとたん、留守を預けていた弟子に話を聞いて、あわてて飛んできたのであった。
総司「とんでもない!…こちらが勝手に参ったのです。どうか気になさらないで下さい。」
総司が狼狽して言った。
東「医者として恥ずかしい…本当に面目ない。」
東はそう言って、やっと顔を上げた。しかし、まだ酒が抜けきっていないようで、頭を押さえている。
総司「先生…大丈夫ですか?」
東「いや…大丈夫です。何も知らなかったとはいえ、本当に失礼しました。…昨夜は江戸から医者仲間が来ていたので、礼庵も連れて島原まで行っておったのです。」
総司は驚いた。
総司「!…礼庵殿…とですか?」
東「はぁ…。彼にはなじみの遊女がいるようで、そこへ招待してもらったのです。」
総司「な、なじみの遊女ですか…。」
総司はかなりの衝撃を受けていた。心の中で「礼庵殿は女ではなかったのか…?」と何度も自問した。
東「私も驚きましたよ。何度か一緒に島原へ行ったことがあったのですが、彼はいつも酒を飲むだけでいつの間にか先に帰っていたんですが…昨夜はそのなじみの遊女と朝方までいたようです。もしかすると、あの遊女を身請けするんじゃないか…と思うほど、仲睦まじい様子でした。」
総司「…礼庵殿が…遊女を身請け…ですか…」
総司の頭の中は混乱していた。
東「彼はああ見えて、結構遊び人なのかもしれません。でも、根が真面目だから、その遊女とのことも本気になっているのかもしれません。…しかし、それだけ惚れられる女がいるというのも、うらやましい話です。」
東は独り納得したように、うなずいている。
総司の頭の中は混乱したままであった。




