第55話
京の町中 夜-
総司は一番隊を率いて、押し込みの一団を追っていた。押し込みといっても、ただの物取りではない。「攘夷御用金借り入れ」と称して、金持ちの家を襲う、いわゆる「御用盗」であった。一時、鳴りを潜めていたが、最近になってまた流行りだした。浮浪の徒が増えてきたためでもあるらしい。
御用盗の一団は袋小路に追い詰められて、足踏みした。先頭を走っていた総司は片手を開き、隊を止めた。
総司「観念なさい。逆らわなければ、命はお助けします。」
総司は刀にも手を当てず、御用盗に向かって言った。
しかし、相手が総司の言うとおりにするわけはない。全員が盗んできた物をそのまま放り投げると、刀を抜いて声を上げ、こちらに向かってきた。総司は抜き打ちに、走りこんできた1人を斬った。斬られた男は刀を振り下ろすこともなく、その場へ崩れた。
それを合図に、一番隊が総司の前へ進み、斬り合いが始まった。
……
「全員を斬り捨てました。こちらは怪我人が2人。どちらも軽傷です。」
伍長が総司にそう報告した。総司はうなずいた。
総司「誰か若い人に、番所へ後始末を頼みに行かせて下さい。あなたは何人か連れて、盗品を持ち主に返しに行くように。私は、怪我人を連れて屯所へ戻ります。」
伍長「承知いたしました。」
伍長は総司に頭を下げて、何人かに声をかけ、散らばっている盗品を拾い始めた。
総司は怪我をしている隊士に近づいた。どちらも腕を切られているが軽傷らしい。
総司「直接、医者のところへ行った方が早いかな…。山野君。」
傍にいた山野が返事をした。
総司「二人を東医師のところへ連れて行ってあげてください。」
山野「承知いたしました。」
山野はすぐに二人を連れて立ち去った。伍長はすでに何人かを連れて、盗品を返しに向かっている。
総司「皆、ご苦労でした。屯所へ戻ります。」
総司は残りの隊士にそう声をかけ、屯所へ向かって歩き出した。
……
総司達が屯所へついてまもなく、山野が怪我をした二人を連れて帰ってきた。
総司「ご苦労さま。早かったですね。」
総司が報告に来た山野にそう言うと、山野が「実は…」と苦笑しながら言った。
山野「東先生はいらっしゃらなかったので、お弟子さんに治療していただきました。」
総司「そうでしたか。他に急患の方がいらっしゃったのですね。」
山野「いえ、それが…」
総司「?」
山野「お弟子さんのお話によると、花街の方へいかれたとか…。」
総司「花街というと…?…島原?」
山野「はぁ。お弟子さんが呼びに行くとおっしゃったのですが、遠慮いたしました。」
医者と言っても、男である。そんな夜があってもおかしくはない。
総司は笑って山野をねぎらい、休むように言って下がらせた。
総司(弟子は、東医師に報告するだろうな…。よけいな気遣いをなさらぬといいが…。)
翌朝、総司の心配したとおり、東が総司を訪ねてくる…。




