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第50話

天見屋の一室-


総司は舞妓に湯飲みへ水を入れてもらい、それを飲み干した。


総司「…ありがとう。」


総司は湯飲みを舞妓に返した。


舞妓「…大丈夫どすか?女将さんにえろう飲まされはったんどすか?」

総司「いや、そうでもないんだけどね…」

舞妓「ほら、また横になっておくれやす。…もっと酔いさましはってから、帰りはったほうがよろしおすえ。」

総司「…ん、そうするよ。…ありがとう。」


総司は体を横にした。


舞妓「…さっき、うちが部屋に入ってきたの…わかってはったんどすか?…うち、すっかり寝入ってはるとばっかり思ってたんどすけど。」

総司「わかっていたよ。…殺気がなかったこともね。」


総司は舞妓を見上げて言った。


舞妓「…いや…そんなことまでわかるんどすか!?」

総司「私は大罪人だからね。」


総司はそう言って笑った。


総司「眠っている時は、よけいに神経が鋭くなってしまうんだ…。いつ寝込みを襲われるかわからないから…。」

舞妓「そんなん…沖田はん、いつ休みはるんどす?…深寝できんかったら、疲れがとれまへんえ。」

総司「…そうだな…わかってはいるんだが…。」


舞妓はふと表情を曇らせた。


舞妓「今までは…想い人はんがそんな沖田はんの疲れを癒してはったんどすやろな…」

総司「…!」

舞妓「…思い出させて…堪忍え。」


総司は微笑んで「いや」…と言った。


舞妓「…うちでは、代わりになりまへんやろか…?」


総司はぎくりとした表情で舞妓を見た。


総司「…あやめ…」


舞妓は目に涙をためて、総司を見下ろしていた。


舞妓「…わかってるんどす。沖田はんの心の中には、想い人はんしか住めへんこと。…でも、ちょっとでもええんどす。…うちの入るところ空けておくれやす。」

総司「……」


総司は黙って起き上がった。そして、何も言わずに舞妓を見つめた。…どう言えば舞妓が傷つかずに済むのかわからなかった。

舞妓は倒れこむようにして、総司の胸にすがりついた。総司はとっさに舞妓を支えた。


舞妓「好きどす!うち…沖田はんのこと、心の底から好きなんどす!…自分でも抑えきれんのどす!」

総司「…あやめ…」


総司は何も言う事ができずに、ただ黙っていた。

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