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第48話

天見屋-


中條と舞妓は二人きりで差し向かいに飲んでいた。

中條はこういうことに慣れていないため、何か緊張していつもの飲みっぷりが出ない。


中條「あ、あの…先生は戻ってこられないのでしょうか?」

舞妓「そうどすな。…説教部屋へ連れて行かれはったんどしたら、そのままどすやろな。」

中條「せ、説教部屋?(--;)」


舞妓は口に手を当てて、くすくすと笑った。


舞妓「女将はんは、沖田はんに惚れてますさかいな。…説教する名目で二人きりになりたいんどす。」

中條「そうでしたか…。でも…あやめさんも…本当は沖田先生との方が…」

舞妓「そんなことあらしまへん。…ほんま、門番はんって、気ぃ遣うお人どすな。」


舞妓はそう言って笑った。

中條は照れくさそうにして、猪口を口に持っていった。が、やがて、はっと気づいて、舞妓にも酒を薦めた。


舞妓「おおきに。」


舞妓はなれた手つきで杯を受け、飲んだ。


中條「…もう…お体の方は大丈夫なんですか?」

舞妓「へえ、おかげさまで…。顔もやっと、白粉で隠せるくらい治ったんどす。礼庵先生が持ってきてくださった薬がほんまよお効きました。」

中條「それは…よかった…」


中條は、舞妓の心の傷の方が心配だった。しかし、それを聞けずにいた。

舞妓は「どうぞ」と言って、中條の空いた杯に酒をついだ。中條がそれを受ける。


舞妓「…あの時…私が倒れている姿を見て、門番はんが泣きはるからびっくりしたんどすえ。」

中條「…え?」

舞妓「うちはもう泣く気力もなかったんどすけど、門番はんがうちの前でぼろぼろ泣いているのを見たら、なんや、うちがしっかりせなあかんみたいな気持ちになって…。」


舞妓はそこまで言って笑った。


中條「…すいません…」

舞妓「ええんどす。うち…ほんま嬉かったんどす。」


中條は赤くなって、あわてて猪口の酒を飲み干した。舞妓はその杯に酒を継ぎ足しながら、話を続けた。


舞妓「うち…顔やらあちこち殴られて、乱暴されて…辛うて、恥ずかしゅうて…もう恋もできんようになるて思ったんどす。…あの時すぐに死のうと思ってたんどすけど、体が痛くて動かんかった…舌噛み切る力もあらしまへん。…こんな姿、誰かに見られたら、それでおしまいやと思ったんどすけど…。門番はんが飛んできてくれはって…沖田はんに来ないように言ってくれはった時…嬉しかった…。救われたような気がしましたわ…。それから…かごまで行くのに、うちの頭から体にすっぽりと、隊服かけてくれはって、うちが見えんようにしてくれはった。ほんま、中條はんのあの時の気遣いは、うちには涙出るほど嬉かったんどす。…ほんま、おおきに。」


中條は頭を下げる舞妓に、慌てて杯を置いて言った。


中條「いや…あの、礼なら沖田先生に…!…いつも冷静な沖田先生が、あの跡取りの顔に金包みを投げつけたんですよ!そして容赦なく斬るって、おっしゃって…」


舞妓は涙ぐんでうなずいた。


舞妓「…女将さんに聞きました。うち、その時礼庵先生の薬飲んで、寝入ってたんどすけど…。それを聞いて…ほんま、えろう迷惑かけてしもたって…。」


舞妓は、はっとしたように、中條の顔を見た。


舞妓「あれから、お咎めはなかったんどすか?秋吉から何や言ってきたんやおまへんか?」


中條は微笑んで首を振った。


中條「それが何も。…あちらはそれこそ、ことが公になったら困るわけですから、何もいえなかったのでしょう。」

舞妓「ほんまどすか!…よかった…。これで沖田はんに何かあったら、ほんまうち、舌噛んで死ななあかんかった。」


中條は涙を指で払っている舞妓を、困ったように見ていた。

そして、黙って舞妓の杯に酒を注いだ。

舞妓は「おおきに」と、猪口の酒を飲み干した。


舞妓「…門番はん…ほんまはうち…怖いんどす。」

中條「!?」

舞妓「…もううちの体、綺麗やなくなってしもた…。こんなうちを、好きになってくれる人いるやろか…。」

中條「!!…あやめさん…」


中條はその舞妓の言葉に、胸をしめつけられた。


中條「大丈夫です。あやめさんなら…。きっと大丈夫です。」


中條はそうしか言えなかった。


舞妓「おおきに…。沖田はんを知らんかったら、うち、門番はんを好きになってましたやろなぁ…。」

中條「…はぁ…ありがとうございます。」


中條は真っ赤になってそう答えた。

舞妓はそんな中條の顔を見て、おかしそうに笑った。

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