第47話
天見屋の一室-
総司は女将と二人で飲んでいた。
女将が気を利かせて、中條と舞妓を二人きりにしようと、説教と称して総司を別室に呼んだのである。
確かに説教はなかった。話すのは秋吉のことである。
女将は、怒りに震えながら秋吉の悪口をいい、時には興奮して泣き出したりもした。
総司(説教の方がましだったかな)
総司はそう苦笑しながら、杯に注がれた酒を呑んだ。今夜は本当の酒である。
女将「あれだけのことをしておきながら、平気な顔して座敷を頼みにくるなんて、あきれて口も利けまへんわ!…ほんまに、女をなんやと思ってるんやろか!!舞妓やからって何してもええいうもんちゃいますやろ!?…もう腹たって腹たって、未だに夜寝られんのどす!!」
総司「…しかし舞妓が皆、秋吉に寄り付かなくなったという話ではありませんか。舞妓に嫌われたら、呉服屋は終わりでしょう。」
女将は、慌てて総司に酒を注いで言った。
女将「へえ…これでつぶれてくれたら、ほんますっきりするんどすけどな。」
女将はそこでくすくすっと笑った。
女将「でも、沖田はんがあの跡取りの顔に金包みを投げつけたって話…聞いてびっくりしましたわ!沖田はんでもそんなことするんどすな。」
総司は顔を赤くして、女将の杯に酒を注いでやった。
総司「あれは、品のないことをしました。…私も頭に血が上っていましたからね。」
女将「…あやめはほんま幸せな舞妓どす…。こんなに大事にしてもろて。…ほんまやったら、泣き寝入りしてるところどす。」
総司「それは、あやめの人徳からでしょう。あの子は本当に気が効くし、きっといいお嫁さんになると思いますよ。」
女将「へえ…うちもそう思います。」
総司は杯を置いた。
総司「ただ…」
女将「?…ただ…なんどす?」
総司「あやめのあの明るさが気になるんです。まだ、心の傷はいえていないだろうに…。」
女将「…そうどすな…。いつも明るいのはあやめのいいところどすけど…。」
二人は、沈黙した。
しばらくして、総司は遠慮がちに女将に言った。
総司「女将さん、すまないが、ちょっと横になってもいいかな。」
その総司の言葉に、女将があわてふためいた。
女将「いや、沖田はん!大丈夫どすか!?」
総司「ちょっと酔ってしまったようです。…何…すぐによくなります。」
女将「すんまへん!…沖田はんの体のこと考えずに、相手させてしもて。すぐに床を用意しますよって!」
総司「いや、床まではいりません。ちょっと寝転ばせてもらうだけでいいんですよ。」
総司は、女将の慌てぶりにとまどった。
女将「じゃぁ、枕と…何か体にかけるものだけでも…。先に体を横にしておいておくれやす!すぐに取ってきます!」
女将はばたばたと出て行った。
総司は苦笑しながら、片肘をついて、ゆっくりと体を横にした。
総司(…酒も弱くなってしまったなぁ。一合も飲んでいないのに…)
総司は一つため息をついた。




