第4話
礼庵の診療所-
総司が久しぶりに診療所を訪れた。
みさ「沖田のおじちゃんっ!!」
みさがいつものように、総司に抱きつく。
総司はいとおしげに、みさの頭を撫でた。
総司「みさ…元気だったかい?」
みさ「うん!」
総司「お茶のお稽古もがんばってる?」
みさ「がんばってる。」
奥から、礼庵が現れた。
礼庵「総司殿、お久しぶりです。…どうぞ、中へ。」
総司「ありがとう…。」
総司がみさと手をつないだまま、下駄を脱いで敷台にあがった時、礼庵が「あ、そうだ」と言って、みさを見た。
礼庵「みさ。…総司殿にお茶をたててあげたら?」
みさは驚いた表情をし、総司が嬉しそうな顔になった。
みさ「…でも…まだ、よううまくたてられへん…」
しどろもどろになるみさに、礼庵が言った。
礼庵「この前たててもらったお茶はおいしかったよ。是非、総司殿にも飲ませてあげなさい。」
総司「それは是非いただきたいな…みさ。」
みさは不安そうに、二人の顔を交互に見ていたが、やがて決意したように「うん」と言って、自分の部屋へと入っていった。
……
礼庵と総司が談笑していると、障子の外からみさの声がした。
礼庵「待っていたよ、みさ。…お入りなさい。」
礼庵がそう言うと、みさが障子を開いて入ってきた。碗を持つ手が震えている。それがかわいらしくて、総司は思わず微笑んだ。
みさは震えながらも袱紗をさばき、てきぱきと茶の動作を進めていく。
そして、震えた手で差し出された茶に総司は手を伸ばした。
総司が飲むのを、みさは息をのんで見つめている。
総司は碗を回し、戻し置いて、にっこりと笑って言った。
総司「とてもおいしかったよ、みさ。」
形式的な言葉ではない、その砕けた言い方に、みさは心底から嬉しそうな表情をした。
そして、碗を引き取り、一通りの動作をしはじめたみさに、総司が言った。
総司「…みさ…いいお嫁さんになれるね。」
みさは真っ赤になって言った。
みさ「…でも…手が震えて…うまくいけへんかった。」
総司「緊張するのはいいことなんだよ。…千利休がね、震えながら茶をたてる弟子を見て、「震えるほどに緊張してもらえるのは嬉しい」というような言葉を言ったそうなんだ。そしてその後の弟子がね。自分も誉めてもらおうと震えて見せたけど、千利休の目は誤魔化せなくて、その人は怒られたそうなんだ。」
総司がそう言って笑うと、みさも小さく笑った。
礼庵「総司殿、よくそんなお話をご存知ですね。」
総司「姉が言っていたんです。…何事も慣れてきたときが恐いってね。」
礼庵「…なるほどね…」
総司「みさ…今の緊張を忘れないでね。」
みさは「はい」と行儀よく返事をした。
すると総司が、突然ぱんと両膝をたたいていった。
総司「さぁ…みさ…。遊ぼうか!」
みさは目を丸くしたが、やがて子供らしい表情に戻って「うん」と言って立ち上がり、二人は中庭に出て行った。
礼庵「…あーあ…けんすいも何もかもほったらかしだ。」
礼庵がくすくすと笑いながら呟いた。




