表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/101

第36話

礼庵の診療所-


礼庵は神妙な表情で、中條を見つめていた。

中條は礼庵に、総司が言っていたことをすべて告げたのだった。


中條「先生には、黙っているようにと言われたんですが…」

礼庵「…そうでしたか…ありがとう。中條さん…。」


礼庵は自嘲気味に笑った。


礼庵「しかし、医者が疲れを悟られるなんて情けない話だな…」

中條「そうは思いません!…お医者様だって…人間ですから…」

礼庵「土方副長はなんとおっしゃっていましたか?」

中條「最初は怒ってらっしゃいましたが、沖田先生がおっしゃっていたことをそのまま告げましたら、仕方がないなと…。そして…礼庵先生に謝っておいて欲しいとのことでした。」

礼庵「副長にまで謝ってもらっては…ますます立場がないな…」


礼庵は苦笑した。


礼庵「どちらにしても、私は行かない方がいいようですね。…私が行くと、総司殿に気を遣わせてしまうようだから…」

中條「本当は来て欲しいんだと思うんです。…このところ、外へ出歩くこともできなくなっておられますし…。」

礼庵「…ずっと、部屋に独りでいては…治るものも治らないだろうな…。中條さん、どうか話し相手になってやってください。」

中條「そのつもりですが…。でも、毎日僕と話をしていても、おもしろくないと思うんです…」

礼庵「それはないとは思いますが…。…しかし、困ったものだ…」


礼庵は困り果てた表情で黙り込んだ。


……


総司の部屋-


総司は床も引かず、畳の上で組んだ手を枕にして寝転んでいた。

外を歩きたいのだが、まだ近藤が許してくれないのである。

先日、道場へ行ったこともばれてしまい、怒られてしまった。


総司「…これじゃ、体がなまってしまう…」


そう呟いた時、外から中條の声がした。


総司「…どうぞ…」


総司はゆっくりと体を起こした。すると中條の遠慮がちな声が返ってきた。


中條の声「…あの…今日はお医者様が…」

総司「え?…誰が呼んだんだい?」


総司は少し憮然として答えた。


中條「…いいでしょうか?」

総司「今、そちらにおられるのかい?」

中條「はい…私の隣に…」

総司「…わかったよ…どうぞ。」


もう来ているのなら仕方がない…と総司は憮然としたまま答えた。

すっとふすまが開いた。

その開いたふすまの向こうを見て、総司の眼が丸くなった。


総司「…医者って…」


かわいい医者だった。みさである。照れくさそうに下を向いて、手にもった風呂敷包みをもて遊んでいた。


総司「…みさ…」


総司の目頭が熱くなった。礼庵からの心遣いだということを悟ったのである。


みさ「おじちゃん…最近来てくれないから…。」

総司「…ごめんよ…さぁ、入っておいで。」


総司はみさに手招きした。

みさは嬉しそうにして、中へ入った。


総司「中條君ありがとう…。後で呼ぶから…。」

中條「はっ」


中條は総司の嬉しそうな顔を見て、ほっとしたような表情でふすまを閉めた。

ほどなく、部屋の中から、総司とみさの笑い声がした。

中條は立ち上がってその場を離れ、呟いた。


中條「さすが、礼庵先生。…ツボを心得てるなぁ。」


が、本当は礼庵本人が来たいに違いないとわかっていた。


中條「まさか…このままお二人が会わないなんてことになったら…」


中條の胸に、ふと不安がよぎった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ