第35話
新選組屯所-
中條は、礼庵を見送った後、すぐに総司の部屋へと戻った。
中條「…沖田先生…中條です。」
総司の「どうぞ」という声を聞き、ふすまを開いた。そして、頭を下げた。
そして、頭を上げて総司を見ると、総司は文机に肘をついて、ぼんやりと空を見上げていた。
中條「…起きていて大丈夫ですか?」
総司「…私はひどい人間だと思っているだろうなぁ…」
中條「!!」
中條は何も答えられず、その場に固まった。
総司「…私も自分で思っているんだ。…あの人に…ひどいことをした…」
中條「…では…礼庵先生にまた来てもらえるように…私からお願いを…」
総司はうつむいて首を振った。
総司「違うんだ…。後悔している訳じゃない…。…あの人にあまり負担をかけちゃいけないんだ。」
中條「!…先生…!」
総司「土方さんに事細かに、私の体のことを報告されても困る、という気持ちもあるけれど…。…礼庵殿はただでさえ、診療や往診で疲れているんだ。…その上に私のことまでさせていては…あの人の体が持たないだろう。」
中條は、はっとした表情になった。
総司「…私にもわかるんだ…。礼庵殿が疲れているのを…。礼庵殿が私の具合を一目見ただけでわかるように…。」
中條「…申し訳ございません。…僕…先生のこと誤解して…」
総司「いいんだ…そうさせたのは私だ。…礼庵殿も怒っているだろうなぁ。」
総司はそう言って、再び空を見上げた。
中條は黙ってうつむいた。
……
土方の部屋-
土方は中條の前で、大きくため息をついた。
土方「…そうだったのか…参ったな…」
土方は総司から、礼庵に来ないように言ったと聞いた時はさすがに怒鳴ったのだった。そして「それで引き下がるあの女医者も何を考えているんだ」と思い、中條に礼庵を呼びに行かせようとした。
しかしすべてを知っている中條から話を聞いて、土方は気持ちを落ち着けることができた。
土方「…となると…後はお前にかかっているというわけだ。」
中條「…私には責任が重過ぎます。」
中條が悲痛な表情で言った。
土方「まぁ、そう言うな。…薬はお前が必ず飲むところを見るようにするんだ。…それだけでもかまわん。…総司の様子は私も気をつけてみるようにするから。」
土方らしくない何か柔らかな口調に、中條は土方が総司をどれだけ心配しているかを悟った。
中條「…心得ました。」
中條は土方に向かって頭を下げた。




