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第33話

礼庵の診療所-


中條と山野が語り合っているその時…。礼庵も縁側に座り、月を見上げていた。

今でも、総司が梅を見上げる後姿が脳裏にやきついている。


礼庵(…どうして、別れさせてしまったのだろう…)


礼庵は、総司が想い人と別れてからずっと、そのことを後悔していた。

今思えば、想い人の親を説得することができたような気がするのである。


礼庵(…いや…総司殿がさせなかっただろうな…。)


そう思い、ふとため息をついた。が、それはただそう思うことで、自分をなぐさめているだけのような気もした。


……


総司の部屋--


そして総司も、自分の部屋から、月を見上げていた。

少し開いた障子の隙間からそそがれる光を浴びながら、総司は想い人のことを思い出していた。


総司「…私がこんなに未練がましい男だったなんて…」


ふとため息をついて呟いた。どんなに忘れようとしても忘れられない人。

梅の香りを嗅いだだけで、想い人と体を寄せ合って梅を見上げたことを思い出してしまう。

そして、こうして月を見上げている時も、最後の夜に想い人と見上げていたことを思い出していた。


想い人の縁談がまとまったことを、総司は近藤から聞いた。

相手はとても優しい人物だという。


『きっと幸せになるよ。…心配することはない。」


近藤がそう総司に言った。


総司(もし、この病のことがなくても…私ではあの人を幸せにはしてやれなかっただろう…。)


今までに何度も思ったことだった。やはり、想い人には、穏やかな日々を送ってもらいたい。自分と一緒になればそうはいかなかった。

そう、何度も何度も自分に言い聞かせていた。

あれから、町中で会うこともなくなった。別れてから町中へ出ることが多くなっているのに、顔を見ることもない。

会えば辛くなるからと、何かの力がそうさせているような気もした。

何か独り取り残されたような、寂しい気持ちになった。



総司は月に引かれるように、屯所の外へ出た。

どうしたって眠れそうにない。

月を見上げながら、腕を組み、ゆっくりと川辺へ向かって歩いた。

しばらくして、ふと先に、河辺で月を見上げる人影が見えた。


総司「!…あれは…」


礼庵だった。こちらに背を向けて月を見上げている。

黙ってゆっくりと近づき、同じように月を見上げて隣に立った。

礼庵は驚くこともなく、ふと総司に向きにっこりと微笑む。総司も微笑み返した。


礼庵「いい月ですねぇ…。あまりに綺麗なのでついふらふらと出てきてしまいましたよ。」

総司「私もです。」


二人はそう言葉を交わすと、再び月を見上げた。


総司(…そうか…私は独りではないのだな…)


ふとそう思った。

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