第32話
新選組屯所 夜-
中條と山野は、縁側に座り月を見上げていた。
一般隊士達は、皆寝入っている時間である。
山野「…へえ…とうとう舞妓さんまで巻き込んじゃったのか…」
山野が、くすくすと笑いながら言った。
中條「笑い事じゃないですよ…。」
中條は、ため息をつきながら言った。
山野「中條さんは間に立たされて大変ですね。」
山野のその言葉に、中條は首を振った。
中條「それは別に構わないんですが…あのあやめさんの気持ちを考えると…あまりに可哀想で…」
山野「……」
山野は、中條の横顔を見た。本当に舞妓に同情しているような、辛そうな表情をしている。
山野「…隅に置けないのは先生の方ですね。…着物についた白粉は取れましたか?」
中條「それが…なかなか取れなかったんです。濡れていたから、よけいかもしれません。」
山野は、中條が必死になって着物を洗っている姿を想像して、思わず吹き出した。今までになかったことだから、大変だっただろう。
中條は不思議そうに山野を見たが、やがてはっと目を見開いた。
中條「…そう言えば…」
山野「え?」
中條「先生の着物からも何か香りがしたんです…。どこかで香ったことがあるような…」
山野は「どこかとは?」と尋ねた。
中條「…あ、そうだ…。梅の香りだ。」
山野「ああ、梅か…。今が見ごろだもんなぁ。」
二人は、総司が想い人「可憐」のことを思い出して、梅を見に行ったのだと悟った。
山野「先生は、可憐様と別れてから…どんどん元気がなくなっていますね…」
中條は、黙ってうなずいた。いつも、何もできない自分に腹が立っていた。
しかし、可憐の代わりは誰にもできない。それもわかっていた。
山野「…どうして、先生と可憐様が別れなければならなかったのか…僕には、今でもわからないんです…。中條さんは、どう思います?」
中條「……」
中條は、ただ黙っていた。中條にも、わかるわけがなかった。




