第3話
四条の茶店-
総司と舞妓は一緒に饅頭を食べ、お茶を飲んだ。
舞妓は、ちらりと総司を見ていった。
舞妓「すんまへん。沖田はん…。男の方て、お饅頭嫌いやったやろか。」
総司「いや…そんなことはないよ。おいしかった。」
舞妓「…よかった…。さっきはおかしなことを言ってすんまへん。…顔色が悪いとか言うたのは、話を聞いて欲しかっただけで、うそなんどす。堪忍…」
舞妓はそう言って、総司の前で手を合わせて見せた。
総司は、微笑んで首を振った。
総司「…半分当たってたんだ。…私も好いていた人と別れた…」
舞妓は、驚いたように目を見開いた。
舞妓「ほんまどすか!?…なんでどす!?」
総司は、思わず周りを見渡した。舞妓が、あわてて口を抑えた。
舞妓「すんまへん。うちびっくりしてしもて…。…でも、女将さんからよく聞いてたんどす…。沖田はんにはいい人がいるから、惚れたらあかんて」
総司は、飲んでいたお茶を思わず吹いた。
舞妓「いや…大丈夫どすかっ!?」
舞妓は手ぬぐいを出して、袴にかかったお茶を拭いた。
総司「…大丈夫…。ありがとう。」
総司はそう言ってから、舞妓に向いた。
総司「…女将さんがそんなことを?」
舞妓「へえ…。だって、沖田はん、ええ男やもの…。惚れへん方がおかしいんどす。」
総司「よく言うよ。」
総司は、笑った。舞妓は、ムキになって「ほんまどす!」と食い下がった。
舞妓「沖田はん、宴ではぶすっとしてはるけど…本当はええ人やって皆知ってます。…うちもな…沖田はん、見かけたとたん…なんや、話聞いてもらいとうなって…。沖田はんやったら、下心なしに話を聞いてくれるような気がしたんどす。」
総司「下心ね…」
総司は、そう言って笑ってから「だけど困ったなぁ…。」と頭を掻いた。
総司「私は、そういう経験はあまりないから…話してもらっても、大した答えは出せないよ。」
舞妓「ええんどす…聞いてくれはるだけでも…。女同士でも、こういう話ってなかなかできんのどす。」
総司「へえ…。そんなものなのかな…。」
舞妓「沖田はんに話聞いてもらえて、すっきりさせてもらいましたわ。ほんま、おおきに。」
舞妓に丁寧に頭を下げられて、総司は慌てた様子で立ち上がった。
総司「もう…帰らなきゃ…」
舞妓「すんまへん。ひきとめてしもて。このお礼はまたさせてもらいます。」
総司「いいよ…そんなことをされたら、困ってしまう。」
総司のその言葉に舞妓はくすくすと笑った。