第28話
川辺-
総司と中條は、数体の屍の中で立っていた。まだ血煙があがっている。
見物人たちは、それぞれ口を覆うようにして、散っていった。
総司「…中條君、怪我はないかい?」
中條「はい。」
総司「斬りあっているうちにも何人か逃げたようだな…。」
中條「ええ…また気が変わって戻ってこないとも限りません。もう屯所へ戻りましょう。」
総司「そうだな…。」
総司は足元のもはや石となった浪人たちに向かって、手を合わせた。そして、その場からゆっくりと離れた。中條も同じように手を合わせてから、後を追う。
しばらく歩いて、総司が「そうだ」と言って、中條に振り返った。
総司「中條君、お民さんのところへ、これを持っていってくれないか?」
総司がそう言って懐に手を差し入れたとき、2人に走り寄ってくる下駄の音がした。
お民だった。
お民「沖田さん!…大丈夫だったのですね!」
総司「…お民さん…。わざわざ来てくださったのですか。」
総司が微笑んで立ち止まった。
お民「本当にごめんなさい…。私のせいですわ…。」
お民はそう言って、総司に頭を下げた。
総司「あなたのせいじゃない…。気にしないで下さい…よくあることなんですよ。今に始まったことじゃない。」
お民「でも…」
総司「それよりも、これからのあなたのことが心配です。彼らに責められたりしないでしょうか?」
お民「大丈夫ですわ。…どちらにせよ、もう引っ越すつもりだったんです。」
総司はほっとした表情をした。
総司「そうですか…。引っ越すに越したことはありません。」
総司は懐から、五両ほどの包みをお民に差し出した。
総司「先ほどのごたごたでお渡しするのを忘れていました。これを使ってください。ご主人の命の代わりにもなりませんが…」
お民は驚いて、後ずさりした。
お民「お金なんて受け取れません…。私はそんなつもりで…」
総司「わかっています。…でも、私の気がすまないのです。せめて…これだけでも。」
お民は涙で潤んだ目を総司に向けると、深々と頭を下げた。
お民「ありがとうございます…。受け取らせていただきます。」
総司は微笑んで、お民の手に包みを握らせた。
総司「どうぞお元気で。…また、どこかで会えるといいけれど。」
お民「はい…沖田さんも…お体にお気をつけて…」
総司「…ありがとう。」
総司がにっこりと微笑んだ。
……
総司と中條は、夕暮れの道を歩いていた。
中條は何か重苦しい空気を感じていた。
中條「…先生、お疲れになったのでは?」
総司「ん…少しね…。」
総司は重いため息をついた。
総司「…今日のことで、また私の悪評が広まってしまったな。」
中條「そんなことはありません。…向こうからけしかけてきたんじゃないですか。」
総司「それを理解してくれる人が何人いるだろう。…そして、また私は誰かに命を狙われるのだろうな…」
中條「…先生…」
中條はなんと言えばいいのかわからずに、黙って総司の後ろを歩いている。




