第23話
翌日-
総司は紅梅を見に来ていた。
去年、想い人と一緒に見上げた紅梅-。
そして、今は独り…。
総司「ちょっと早かったようだな…」
梅は少しほころび始めた頃で、まだ咲いていなかった。
総司「…また…来るよ…」
総司はそう紅梅に呟くと、独り川を渡った。
……
新選組 屯所前-
総司が屯所へ戻ると、門の前に舞妓が来ていた。
門番の中條に何かを渡している。
総司が一瞬どうしようかと迷ったとき、中條の方が総司に気づいた。
中條「!沖田先生!」
舞妓がその中條の言葉に驚いて、総司の方を見た。
舞妓「…沖田はん!」
舞妓は、総司の傍まで走りより、突然頭を下げた。
舞妓「沖田はん…ほんま、すんまへん!うち、でしゃばったことしてもうて…」
総司「ああ…昨日の話かい?…土方さんに食ってかかったって聞いたけど…」
総司が笑いながらそう言うと、舞妓はとたんに顔を赤くしてうつむいた。
舞妓「へえ…。でも、言わずにいられへんかったんどす…。沖田はんが、想い人はんのことを思い出しているような目を見てしもたら…なんや、悲しゅうなって…。夜も寝られんようになって…」
総司「…ありがとう…。でも…大丈夫だから…。時々思い出すけど、私にはいい思い出になっているから。」
舞妓「へえ…。ほんまうち、勝手に独りで興奮してしもて…すんまへん。」
総司は、微笑んで首を振った。
舞妓「あの…また、沖田はんが宴に出はったとき、うち、隣に座ってええやろか?」
総司「もちろん…。よろしく頼むよ。」
舞妓はうれしそうに顔を上げ、総司をみた。
舞妓「へえ…!…うちこそ、よろしゅう頼んます!」
舞妓は再び頭を下げた。
舞妓「あ!それから…!」
舞妓が思い出したように、中條の方を見た。
舞妓「?…あら?…門番はん?なんで後ろ向いてはるんどす?」
総司が思わず吹き出した。中條は2人に気を遣ってか、ずっと背を向けて立っていたようである。
総司「中條君、それじゃ、門番にならないだろう…。」
中條が顔を赤くして、振り返った。
中條「す、すいません…!」
舞妓が「どうも、おおきに」と言って、その中條の手から、包みを取った。
舞妓「沖田はん…女将さんから聞いたんどすけど、甘いもん好きなんどすなぁ…。これ、おはぎどす。うちが作ったんどすえ。食べておくれやす。」
総司の顔が明るくなった。
総司「ありがとう!…遠慮なくいただくよ。」
舞妓「いやぁ、うれしいわぁ、沖田はん…。そんな顔、うち初めてみせてもろたわ…。」
舞妓がほっとした表情で言った。




