第22話
翌朝 土方の部屋-
土方が憮然とした表情で、前にいる総司を見ていた。
総司は、困ったように苦笑していた。
総司「だって…向こうは私を知らないで、襲ってきたんです。…結局何もなかったし、わざわざ言う必要もないと思って…」
土方「…全くおまえは…」
土方は、腕を組んだ。
土方「何もなかったとしても…襲われたのなら、そう言ってくれ。…本当にお前と知らずに襲ったとはわからんのだ。監察に調べさせなければならないことかも、しれないだろう?」
総司「大丈夫ですってば。」
総司が、にこにこしながら言った。
土方「舞妓の女将がとにかく、お前に礼を言って欲しいと言っていた。…あのまま舞妓が独りで帰っていたら、何をされていたかわからなかったとな。」
女将は、総司が巡察の時に来たらしい。それも普段着の舞妓を、連れてきていたと言う。
土方「あの舞妓は、お前専属だそうだな。」
土方が、そう言って笑った。
土方「お前がいつも憮然としてるから、そうやって皆に気を遣わせるんだぞ。天見屋の女将の言うとおり、その場の雰囲気というものを考えろ。」
総司「わかりましたよ。…もう、説教はごめんです。…部屋へ帰っていいですか?」
総司がそう言うと、土方は苦笑して「全くお前って奴は」と笑った。
……
総司の部屋-
総司は寝転んで、開いた障子から空を見ていた。
『この総司はんの胸…想い人はんだけのものでしたんやろ?』
その舞妓の言葉を思い出し、可憐を抱いたぬくもりがよみがえった。
舞妓は土方に、どうして総司と可憐を別れさせたのかと、食ってかかったそうである。
それに女将はびっくりして、慌てて舞妓を連れて帰ってしまった…と、土方は苦笑しながら言っていた。
『…もっと自分勝手しはっても、ばちあたらんと思います。」
総司は、舞妓が泣きながら言ったその言葉を思い出した。
総司(…病のことがなければ…)
総司は、再び空を見上げた。
可憐とは、会うこともままならなかったが、会えば、時々膝枕をしてもらった。
そして、その膝のぬくもりを感じながら、今見ているような空を見上げたことを思い出した。
今はぬくもりはない。
が、総司の心の中では、いつも可憐の幻が傍にいる。




