第20話
祇園から先斗町へ向かう道--
総司と舞妓は月明かりの下をゆっくりと歩いていた。
舞妓は総司に気を遣って少し後ろを歩いている。
総司はそんな舞妓に「話しにくいから」と自分の隣を歩くように誘った。
舞妓は「ほな遠慮なく」と答えて、総司と並んだ。
総司「…先斗町の子だったのか…」
総司がそう言うと、舞妓は「へえ」と答えた。
舞妓「うちの置屋の女将はんと、天見屋の女将はんは昔っからの知り合いですさかい。」
総司「そうか…。じゃぁ、いつもは独りで帰ってるの?」
舞妓「へえ…。」
総司「それは危ないな…。」
舞妓「…だから、最近は天見屋の女将はんが気ぃ遣って、うちを宴によばはれへんかったんどすけどな。…今日は沖田はんが来るから言うて…」
総司「…わざわざ私のために…?」
総司は驚いて、舞妓に向いた。
舞妓はくすくすと笑った。
舞妓「だって、ぶすっとした総司はんを見たら、大抵の舞妓はおろおろするだけどすから。…うちは沖田はんの機嫌取り役ってきまっとるんどす。」
総司は苦笑した。
総司「…ごめんよ。…いつも気を遣わせる。」
舞妓「いえ…うちはそんな沖田はんが好きなんどす。気にせんといておくれやす。」
総司はどきりとして、舞妓に向いた。
舞妓は口に手を当てて、笑い出した。
舞妓「いや…そんな顔せんといておくれやす。…好き…言うのは、深い意味やおへん。」
総司「…そうか…」
総司はほっとした表情になり、再び前を向いて歩き出した。
2人はしばらく黙って歩いていた。
舞妓「…この前は、話聞いてもらっておおきに。」
総司「話を聞いただけだから…礼を言われても困るよ。」
総司が困ったようにそう言った。舞妓は「そんなこと…」と言って笑った。
が、やがて表情を曇らせた。
舞妓「…でも…沖田はん…ほんま、気の毒なお人どすな。」
総司「…え?」
舞妓「想い人はんとのことどす。…ほんま殺生な話やわ。」
総司は苦笑した。
舞妓「想い人はんが、堅気のお嬢さんやから別れさせられたいうて、天見屋の女将はんから聞いたんどすけど…」
女将は総司の病のことを舞妓に言っていないらしい。
総司「私が決めたことなんだ。…後悔はしてない。」
舞妓「でも忘れられへんのどすやろ?」
総司「もちろん…」
舞妓「…想い人はんって…幸せな人どすな。うらやましいわ。」
総司「あなたもいつかそんな恋をすることがあるよ。きっと…。」
舞妓は少し頬を染めた。
舞妓「…そうどすやろか…。そんな恋…したいどす。」
総司が微笑んで舞妓にうなずいた。
その時、背後に殺気を感じた。
総司は舞妓をかばうように背にして振り返った。
数人の男がこちらに近づいてきている。
舞妓「!!」
舞妓は怯えて、総司の背に隠れた。総司はこいくちを切った。
総司「…離れないで…。」
その言葉に舞妓がうなずいた。




