第2話
四条-
非番の日、総司は散歩に出た。部屋でじっとしているのが苦痛だったのだ。
すると、前から見知った舞妓がこちらに向かって歩いてきた。
舞妓「沖田はん!」
総司は思わず逃げようと思ったが、舞妓が走りよってきたのを見て、あきらめた。
舞妓は普段着だったので、周囲の人間は舞妓とはわからないだろうが、何か人とは違う雰囲気が漂っていた。
舞妓「こんにちわ。沖田はん…。どこか行きはるんどすか?」
総司「…いや…別に…」
舞妓「…沖田はん…なんや、顔色がわるおすな。」
総司「…え…?」
総司がぎくりとした顔をしたのを見て、舞妓は慌てていった。
舞妓「…勘弁しておくれやすな…。会ってすぐにそんなこと言うもんやおまへんな。」
総司「いや…」
総司は苦笑して首を振った。
舞妓「…もしかして…沖田はんもうちと同じやろか…」
総司「…え?同じとは?」
総司が思わず聴き返すと、舞妓は総司を傍の茶店に誘った。
総司は少し躊躇したが、舞妓の言葉が気になったので、いうとおりに茶店の床机に座った。
舞妓は茶店の娘に饅頭を注文すると、恥ずかしそうな表情をして総司に向いた。
舞妓「…うち…男の人に振られたんどす。」
総司「!…」
総司は言葉を失った。何か女性の勘というものが恐ろしく感じた。
舞妓は「ほら図星」と言って笑った。
総司は苦笑した。
総司「…振られたって…どうしたの?」
舞妓「…振られた言うんやろか……。その人、何か宴があると必ずうちを呼んでくれはってな…。いつもうちを横に座らせてくれはって…。…それで、いつか舞妓やめさせてくれるて、言うてはったんどす。」
総司「……」
舞妓「…うち知らんかったんどすけど…その人、奥さんがいはったんどす。それを女将さんから聞いて、びっくりして本人に聞いたんどす…。そしたら…「それがどうしたんや」言わはって…。結局、うちを妾にいうことどした。…うち「そんなんいやや」…言うたら「堅気でもないのに、ようそんなこと言うわ」って…」
総司は思わず唇を噛んでいた。舞妓は遊女とは違う。しかし、舞妓にしても遊女にしても「堅気でない女」という捉え方をするその男に、総司は他人のことながら怒りを感じた。
舞妓「…堅気やないなんて…なんでそんなこと…。そんな風に見られていたかと思ったら…情けななって…」
総司「気にすることはないよ…。そんな男だと先にわかったから、よかったじゃないか。」
舞妓「…そうどすな…うちも、そう思ったんやけど…でも、なんやすっきりせんのどす。…うち、なんやこれから恋もできんような気がして…」
総司「そんなことはない…男の人は皆そんな人ばかりじゃないよ。」
舞妓はその総司の言葉に微笑んだ。