第19話
天見屋-
久しぶりに総司は、土方と宴会の席にいた。
今回は、会津藩との会合ではない。
新選組に資金を援助してくれた商家が宴を開き、近藤と土方を誘ったのである。
しかし、近藤が風邪で体調を崩していたので、代わりに総司が駆り出されたのであった。
こういう時の総司は愛想がない。いつものようににこにこしていればいいものを、そうしなかった。
土方は必要以上に愛想を振り撒くまでもないが、うまく相手と話を合わせていた。
遠く離れた小舞台では、舞妓が踊っており、商家が呼んだ知り合いの客達も楽しそうに酒を飲んでいる。
総司は商家の主人からは土方を間に挟んで離れて座っているため、主人に表情を悟られることはない。
それをいいことに、総司だけが独り憮然とした表情で酒を飲んでいた。
舞妓「沖田はん…そんな顔しはるもんやありまへんえ。…お気持ちはわかるんどすけど。」
舞妓がくすくすと笑いながら、総司を諭した。前に、町中であった舞妓である。
総司「……」
総司は黙って酒を飲んだ。
舞妓「ほんまかわいらしいお人どすなぁ。」
総司「からかうな。」
舞妓「まぁ…からかっとるんとちゃいます。まるで子供のようやもの。」
総司「……」
舞妓「女将はんが心配してはりますえ。また体の具合がわるいんちゃうかいうて…」
総司「…久しぶりに、女将の説教が聞きたいなぁ。」
舞妓がくすくすと笑った。
舞妓「それやったら元気な証拠どすわ。女将はんに伝えておきますよって。」
総司「よけいなことはしなくていいよ。」
舞妓「ふふふ…ほんにかわいらし人…」
総司「……」
宴は、総司に構わず盛り上がっていた。
……
…やがて、夜もふけて宴も終わり、土方と総司は静かな月明かりの下へ開放された。
すると女将が総司を追って走り出てきた。
女将「沖田はん!!」
総司は思わず肩をすくめた。条件反射になってしまったらしい。
土方はその総司を見て笑った。
女将「沖田はん…せっかくの宴やのに…。なんどすか、あの憮然とした顔…!相手の方に失礼やおまへんか。」
総司「舞妓から聞いたのですか?」
女将「ええ…うちの説教が聞きたい言ってるって聞きましたえ。だから遠慮なく言わせてもらうことにします。…ほんまあきまへんえ。子供やないんやから、ちゃんと場というものを考えておくれやす。」
総司は女将に背を向けてため息をついている。よけいなことを言うんじゃなかったと後悔していた。
土方はにやにや笑って、2人から離れて傍観している。
女将「あ、土方はん…これから休息所へお帰りどすか?」
土方が驚いた顔をしたが、やがて「そのつもりだが」と答えた。
女将「それやったら…ちょっと沖田はんお借りしてよろしいやろか。」
土方「?…どうした?」
女将「舞妓を置屋まで送ってやってほしいんどす。最近物騒やさかい…一人だけ先斗町の子なんどす。」
土方「そうか…。総司構わないか?…。」
土方が総司に尋ねた。
総司はまた憮然とした顔になったが断るわけにはいかなかった。
総司「わかりました。」
それを聞いて、女将が舞妓を呼んだ。
なんと出てきたのは、総司の相手をしていた舞妓であった。
舞妓「沖田はん、すんまへん。手間取らせます。」
舞妓は総司に丁寧に頭を下げた。総司は苦笑するしかなかった。




