第18話
礼庵の診療所-
中條はその足で、礼庵の診療所に向かった。
そして、玄関で「こんにちわ」と中へ声をかけると、みさが出てきてその場に座り、両手をついて頭を下げた。
中條「みさちゃん、久しぶりだね。先生、いらっしゃるかな…」
さえと同じくらいのみさのその姿に、何か複雑な思いを持ちながら、中條は言った。
みさは「はい」と答え、ちょっととまどったような表情をした。中條はそのみさの表情をよんだ。
中條「先生…忙しいんだね…じゃぁ…また改めてくるよ。」
中條がそう言ってみさに背を向けた時、突然、中から声がした。
「中條君!…構わないよ。入っておいで。」
中條は驚いてその声に振り返った。見ると、総司が身を乗り出してこちらを見ていた。
……
礼庵と総司は、中條からさえの話を聞いて、しばらく黙っていた。
礼庵「ひどい医者だな…。いったいどこの医者だろう。」
礼庵が、思案するようにして腕を組んだ。
総司「最初から金を騙し取るつもりだったんだな。ひどい話だ…。」
総司が、呟くように言ってから微笑んだ。
総司「だけど、さえちゃんが無事でよかった。」
中條「ええ…それだけは…」
中條は、まだ何か沈鬱な表情でいる。
礼庵「その医者は…京から逃げたのだろうか?」
中條「母親は探し回ったそうですが、見つからなかったとおっしゃていました。たぶん…京にはいないのではないかと…」
皆、一様に黙り込んだ。やがて礼庵が口を開いた。
礼庵「とにかく、明日にでも、さえちゃんのところへ行きますよ。…お父様の病は治してやれないかもしれませんが、できる限りのことはします。」
中條は礼庵に深々と頭を下げた。
総司はさえが、ためらいもせずに自分の背をさすってくれたことを思い出していた。
総司(…彼女は慣れていたんだ。…私の病のことももうわかってしまったかもしれないな)
そう思うと同時に、その時のさえの赤い顔を思い出した。
総司「そうだ…中條君。…さえちゃんは君のことが好きなようだよ。」
中條「え?」
中條は突然の総司の言葉に、面食らったような表情をして顔を上げた。
総司「君のことを話すと顔を真っ赤にしていた…。たぶん初恋なんだと思うな。」
その総司の言葉に、今度は中條の方が真っ赤になっていた。
礼庵「おやおや…罪深いこと。」
礼庵がそう言って笑った。
総司「今日のことで、いっそう君を好きになっただろうな。」
その総司のとどめの言葉に、中條は本当に困りはてた表情をしている。
中條「先生!…僕…どうしたらいいんでしょう?」
中條は、総司に体を向けて尋ねた。
総司は、驚いて身を引いた。
総司「そんなこと私に言われても困るなぁ…」
総司が、苦笑しながら言った。
礼庵もくすくすと笑いながら、中條を見ているだけである。




