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第17話

集落 さえの家-


中條はさえの家の中にいた。

中條の前には、父親らしき男が床に寝かされており、部屋の端に赤ん坊が寝ていた。

そして、中條の両腕にはさえと弟たちがしっかりとしがみついている。


中條「ご主人は…なんのご病気ですか?」


中條が遠慮がちに母親に尋ねた。母親は「肺病です」と答えた。

中條の目が驚愕で見開いた。総司と同じ病である。

母親が続けて言った。


「…主人の病を10両だしたら治せるとお医者様に言われたので、お金をお借りしたのです。主人の病さえ治れば、お金もすぐにお返しできると思って…言われるまま娘を…。でも、10両をお渡ししてから、お医者様が来なくなってしまって…。町へ出て探し回っても見ましたが…見つかりませんでした。」


中條は唇をかんだ。肺病…つまり労咳は今の医学では治せない・・と礼庵が言っていたことを思い出した。ただ、じっと静かにしていれば、治る可能性もあるということだったが、この父親のやせ細った腕を見る限り、治るようには見えなかった。

中條は、その父親を治すと言って金を騙しとった医者に殺意さえ持っていた。


中條「ご主人のことは、私のお世話になっているお医者様にお伝えします。…代は私が払いますから…。」


母親は中條に頭を下げ、何度も「すんまへん」と言った。




中條が家の外へでると、さえと弟たちもついて出てきた。

そして、さえはまだ怯えたような目をして中條の足にしがみついてきた。


中條「大丈夫だよ。もうあの人は来ないから…。」


中條はしゃがんでさえに言った。

しかし、さえは「帰らんといて…」と呟いた。

中條は、目を伏せて首を振った。


中條「だめなんだ、仕事があるから…。また明日も来るから待ってて…ほら…指きりしよう…」


さえはうなずいて、中條の差し出した小指に自分の小指をからめた。そして涙声で歌を歌うと指を離した。

中條は身を切られるような思いで立ち上がり、背を向けて歩き出した。


さえと弟たちはいつまでも中條の背に手を振っていた。

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