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第16話

町外れの集落-


中條は借用書から目を離すと、男をにらみつけた。


中條「…これには十両とありますね…私が出しましょう。」


周囲が、ざわめいた。男も驚いた目で中條を見上げた。


男「…お、おまえが…払えるのか?」


中條は、袂に手を差し入れた。手当をもらったところで、また、前にもらった分の残りもある。ためらうことなく十両の包みを取り出すと、そのまま男に差し出した。


中條「丁度あります。これでいいでしょう?」


男はびっくりしたように目を見開いていたが、やがて中條から金をひったくるようにして取り上げると、走り去っていった。

見物人達から安堵の息が漏れ、やがてそれぞれ家へ帰っていった。


中條は、すぐに借用書を破り捨てた。

だが、まだ怒りで体の震えがとまらなかった。

さえが中條の握り締めた拳に触れた。中條は、はっとして、さえの前にしゃがみこみ、さえの頬に残った涙を払ってやった。さえはすぐに泣き顔になり、中條の首にしがみついて再び泣いた。


中條「今日来て…よかった…。もし連れ去られていた後だったら…どこに行っていたか…」


中條は、さえの体を抱いた。さえは泣きながら、何度も「おおきに」と言った。

しばらくして、やっと母親が家から出てきた。弟たちが、中條の背中に抱きついた。


中條「もう大丈夫だよ。…おねえちゃんは、どこにもいかないからね」


中條がそう言った時、母親が中條に深々と頭を下げた。


「ほんまに助かりました…お金は少しずつでも返しますよって…」


中條はさえの体を離し、立ち上がった。


中條「いえ、いりません。僕はただ、さえを守りたかっただけですから。」


母親はその中條の言葉に、思わず両手で顔を伏せた。


「すんまへん…すんまへん…」


そう言いながら、何度も中條に頭を下げた。さえは、中條の足にしがみついたまま、母親を濡れた目で見上げていた。

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