第15話
町外れの集落-
中條は久しぶりにさえに会いに、集落にやってきた。
…が、いつもなら、子供たちが井戸の周りで洗濯をしているのに、誰もいない。
中條「?…おかしいな…」
中條はそう思って、ふとさえの家の方へ歩き出した。すると、さえの家の前あたりで、人だかりがしている。
中條「!?」
中條はあわてて人だかりの後ろに立って中を見た。すると、さえが男に手をひっぱられ大声で泣いているのが見え、その男を周りの男たちが必死に抑えているという感じだった。
中條は戦慄のようなものを感じて、思わず人を押しのけるようにして、中へ入っていった。
中條「待て!さえに何をする!!」
中條は思わずそう叫んでいた。その声に皆が中條に注目をした。そしてざわめきが大きくなった。
「新選組のだんなはんや!」
そんな声が飛び交った。
さえの手をひっぱっていた男は、何かぎくりとした表情をしたが、中條を見て憮然とした表情で「誰だ」と言った。
中條「さえの知り合いです…。この子をどうするつもりです?」
中條は必死に昂ぶる気持ちを抑えながら、男を見下ろした。
男は自分よりもはるかに大きい中條を見上げて、少し怯えた表情をした。
男「…親に金を貸していたんだ…でも、返してもらえないから娘を…」
中條の目が吊り上った。
中條「そんなことはさせない!…だいたいそんな約束でもしていたのか!?」
中條は思わず怒鳴っていた。男は驚いて、借用書のようなものを震える手で中條に見せた。
男「…し、したとも…ここへ書いてある。」
中條はその借用書をひったくるようにして取りあげた。字は大分読めるようになっている。
やがて中條の目が驚愕したように見開かれた。…確かに書いてあったのである。
さえは泣きながら中條の足にしがみついていた。そして、肝心の母親は、泣き叫ぶ弟たちを抱きかかえ、家の中から震えながらこちらを見ていた。
中條は借用書を見つめたまま、その場に立ちすくんでいる。




