第100話(了)
新選組屯所-
一般隊士は近藤の厚意で、翌朝の出立まで自由行動が許された。
山野は、祝言を挙げたばかりの妻の所へ帰って行った。
そして、中條は床に寝たままの総司の傍にいた。
総司「中條君…さえちゃんには、お別れを言ったかい?」
中條「!?」
中條はうつむき、ひざに乗せている両手を握り締めながら答えた。
中條「…言ってません。」
総司は目を見開いた。
総司「どうして!?」
中條は、体を起こそうとした総司を、そっと押さえるようにして答えた。
中條「お別れだとは…思っていないからです。」
総司は、床に体をゆだねながら涙をこらえるような表情をした。
総司「…そうか…そうだね。」
中條「実は…礼庵先生にも、みさちゃんにも…何も…」
総司「…!…」
総司は、中條の辛そうな顔を見上げながら黙っている。
中條「…お顔を見るのも辛いのです…」
総司「…うん…わかるよ。」
中條は、少し濡れた目を総司に向けた。総司も濡れた目を中條に向けて言った。
総司「京に帰って来れる。きっと…。そう信じよう。」
中條は、唇をきっと噛み締めてから答えた。
中條「はい。…帰ってきましょう。皆で…揃って…」
総司「うん。」
総司は微笑んで、手を差し出した。中條はその手を握った。
……
翌朝早く、礼庵はみさを連れ、総司を見送りに行った。みさにどうしても会わせておきたかったのだ。
屯所は壬生から遠く離れていたが、みさは文句も言わず、ただ黙って礼庵について歩いた。
屯所の前に、総司が土方の後ろについて出てきた時、みさは総司のあまりのやせ方に驚いて、すぐには近寄らなかった。
「みさ、お別れを言うんだ。」
礼庵は、みさの傍にしゃがんでうながした。
総司が、みさに微笑んだ。
「みさ!」
「沖田のおじちゃん!」
みさは総司の元へ走りより、足にしがみついた。総司はしゃがんで、みさを抱きしめて言った。
「遠いのに…よくここまで来てくれたね。ありがとう。」
みさは総司に抱きついたまま、黙って首を振った。
「しばらく遊べないけど、帰ってくるからね。それまで、礼庵先生の言う事をきくんだよ。」
総司のその言葉に、みさは嗚咽をこらえながらうなずいた。礼庵が、二人に近づいた。
「さ、みさ。総司殿は行かなくちゃいけない。さよならは?」
礼庵のその言葉に、みさは首を振った。
「みさ、またおじちゃんに会えるから、さよなら言わない。」
礼庵は、たまらなくなって横を向いた。総司がうなずいた。
「そうだね。じゃ、いつものように指切りしよう。」
総司が、小指を出した。みさはうなずいて、指切りをした。
「総司行くぞ」
土方が、呼びかけた。礼庵はあわててみさを引き寄せ、土方に頭を下げた。
土方が礼庵にうなずいた。総司が立ち上がって、礼庵に頭を下げた。礼庵も返した。みさは必死に唇をかんで、涙をこらえていた。
礼庵は中條の姿を探した。…だが、多くの隊士に紛れているため、見つけることができなかった。
…新選組は、京を後にした。…もう、戻ってこられないことなど、誰も知る由もなく…。
(一番隊日記(参)-思い出を胸に- 了)
……
最後までありがとうございました!
最初の方は、うちの総司君がメソメソしどうしで、呆れられた方もいらっしゃると思います。
また最後の方は「一番隊隊士 中條英次郎」と同じシーンが続き、先に読まれた方は、新鮮味がなかったかと思いますが、それでも毎日20人様以上のユニーク数があり、また終わりに近づくにつれ、ピーク時には50人様まで増えて嬉しかったです!ありがとうございますー(^^)
そして「まめ」様!いつもご感想をありがとうございます!励みになりましたっ(><)また、評価をつけて下さった方、お気に入りにご登録いただいた皆様、本当にありがとうございました(m_ _m)
元々、一番隊日記を始めたのは、私自身が「毎日沖田さんの違った姿を見ていたい」という気持ちからでした。 またサザエさんのように(笑)、同じ年をぐるぐる回るつもりだったのですが、時折史実として残されていることを自分でも書きたくなったり、史実から離れてみたかったりしながら、前に進んでいくしかない状況となってしまいました。そのため、ちょっと史実を無視した流れになってしまった感は否めません。それに、日記なのに半年すっとばしてしまったり(--;)どうかお許しを(m_ _m)。
そして、この後は、一番隊日記(最終章)「千駄ヶ谷暮色」と、続いていくわけです。…わけですが…「鳥羽伏見の戦」を飛ばすのも無理があるなぁ…と思ったのですが、一番隊が解散した後のことを「一番隊日記」として書くのも無理があるなぁ…と。
…ということで(???)最後に番外編として「新選組一番隊隊士「中條英次郎」」の「訣別の時」を、少し修正してアップさせていただき、一番隊日記(参)を締めたいと思います。
最後まで、本当にありがとうございました(^^)
立花祐子




