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前略 親愛なる妹弟子へ

間章は他視点です。あまり長くはならない予定。あくまで予定。

今回はオズワルト視点です。


 埃っぽい記録庫の中、四人の男が散乱する記録を読んでいた。


 ――とか書くとすっげぇ他人事っぽいけど、その四人の内の一人ってオレな、オレ。でもまぁほら、お前が起きた時に現状把握出来るように、ちゃんとお前がぶっ倒れている間の言録とってやってるんだからオレっていい兄ちゃんだろ? 我ながら自分の優しさに惚れ惚れするね。シュリアちゃんもこんなところに惚れたんだろうな。オレカッコいいもんな。シュリアちゃんと言えば、あのカス野郎に拉致られて下衆野郎に嬲られかけたのがトラウマらしくってよ、オレが駆け付けた時「オズワルト様……!」って抱き付いてきたんだぜ。いやぁ可愛かった。小さく震えてた潤んだ瞳で上目遣いで抱き付かれるとか男のロマンだろ? 定番だけどな、定番だからこそいいんだよ。お前が何かと口にする“後世”でも不動の人気を誇る仕草だと断言するぜ。それとな、シュリアちゃんの魅力はそれだけじゃねぇんだ。あどけない顔と無垢な瞳と愛らしい性格。それに見合わぬ発達のいい身体! もう狙ってるとしか思えねぇだろ! 王妃のプロポーションと王のロリフェイスの賜物だな。遺伝子ってすげぇわ。つか60過ぎてんのに垂れない豊満な胸を持ってる王妃も、60過ぎてんのにやっぱロリ系な顔の王も、一体どうなってんだろうな。ラヴェンナはオレや師匠を人外扱いしてるが、オレに言わせりゃあの二人のがよっぽどだぜ。オレに「適わねぇわ」って思わせる奴なんて師匠で十分だってのに、カルフシアの権力者二人がそれだもんな。ガッツリ手綱握られちゃってんの、オレ。勿論シュリアちゃんにも握られてるけどな! おっともちろん心の方だぜ? オレの体の一部をじゃねぇぜ? ……あーやべ想像したら■■■■■■■





 ――埃っぽい記録庫の中、四人の男が散乱する記録を読んでいた。

 四人の内の一人である宮廷魔導師オズワルトが、カルフシア宮廷の職務室の一室と、このオヴレシア国の記録庫との道を繋げたため、扉を開けるだけで簡単に二つの部屋を行き来できるのだが、それがなければどれだけ大変だっただろうとうんざりする記録の量だった。

 カルフシア宮廷も大国と言われるだけあって、並々ならぬ数の記録を保管しているが、オヴレシアは規模が違う。小国と言えど、歴史ある国として名を馳せていた事を裏付ける様に、記録庫にはカルフシアの数倍もの記録が保管されていた。オズワルトがいなければ、その膨大な記録を一つ一つ運び出さなければならなかったのだ。記録をそのまま転移させようにも、カルフシアにはこれ程の量の書簡を保管しておく場所がなく、オズワルトの「じゃあ繋げりゃいーじゃん。部屋同士」というあっけらかんとした発言によって現状に落ち着いたのだが、本当にオレ――じゃない、オズワルト様々である。そんなにあっさり口に出来る様な簡単な魔術ではないはずだが、いとも簡単に事を成したオズワルトには、もう言葉もない。だから行動で示そうと思う。手始めにオ…ズワルトとシュリアちゃ…シュリアの二人きりの時間の確保に力を費やそう。彼らの為ならそれくらい何でもない。ありがとうオズワル■■ ■  ■



 ――と、そんな事を他の三人が思ったかどうかは謎であるが、少なくとも部屋を繋いだ時に、呆れた眼差しを送っていた事は確かであるので、大なり小なり似たような事は感じたのではないだろうか。そして、その場に集まった彼らが――……、




 あ"ー、やってらんねぇ。ラヴェンナすげぇわ。お前8年もこんなちまっちました作業やってたんだな。あー、何度かインクで汚しちまったから、お前みたいに謝りの一文載せとくわ。最初のはホラ、ちょっとシュリアちゃんの事語り出したら止まらなくなっちまってよ。師匠に殴られて悶絶してた。ついでに問題箇所が塗り潰されてた。師匠曰く「下品」だってよ。んなもんラヴェンナの記録もそうだったじゃねぇか。……っと、まぁいいや。その後は師匠の監視下で頑張って三人称で書いてたんだがやっぱ無理。なんか上手く書けねぇわ。しかもちょいちょい師匠がダメ出しして塗り潰してくしよ。で、なんかいいタイミングで師匠が呼ばれて一人になったから、今からは普通に書くわ。安心しろよ、シュリアちゃんの事はお前が起きてから好きなだけ話してやる。んじゃ、続き書くな。




 お前が8年かけて書いてきた記録は、全部読ませてもらった。オレを甘く見んなよ? 公式記録だけじゃなくて、お前のどーでもいい端書きまで隅から隅まで読み漁ったんだぜ。で、最後の一つを読み終えた時、皇太子が――っと、そういや言うの忘れてた。四人ってのはオレとアレクとヨシュアとレグルスな。ん、まぁアレク皇太子が言ったわけだ。


「『――薇背負った第一王子そっくりの男と、数日ぶりに見る元同僚、そして王が何事か言い争う。首を圧迫する指を剥がそうと、鬼の形相で駆け寄る元同僚の後ろに、姿を見るのは8年ぶりの、懐かしい兄弟子が見えた。


 圧迫感が消える。目の前には赤。てん、と転がる王の首。


 ――そして、オヴレシアは滅びた。』……これで、最後か」


 もう一度言うぜ。「……これで、最後か」。聞いたかラヴェンナ! アレは内心笑い転げたな! ぶっはぁ見て分かるだろ最後かどうかなんて。一々芝居掛かってんじゃねぇよぶっふぉ。しかも眉間に寄った皺を解しながら言ってんだぜ。んで次に、首を回した時にゴキバキ嫌な音を立てた身体にまた顔を顰めて、重々しく口を開いて「弟よ」とか言ったわけだ。マジどんだけ□□□ ちょ、悪い。笑い過ぎて涙出てきたわ。


 ん、それで芝居掛かって言った台詞がこれな。


「良かったね。薔薇背負った美麗男子と誉められているよ」


 腹 筋 崩 壊 !

 言うに事欠いてそれかよ! しかもその後の弟ヨシュアの返事がよぉ。


「嫌味ですか兄上。同じ事はあなたにも言えますからね」


 お 前 も か 。

 カルフシア皇太子と第二王子は、背格好も声も容姿もよく似た二人なわけなんだが、こんな所まで似なくていいと思わねぇか。何であれだけの史実っつーか内部資料読んだ第一声がそれなんだ。場を和ませようとしたとか? 天然? そういうのいらないからさっさとやることやって終わらせてシュリアちゃんとこ行かせろよって思ったね。王子二人はお互いヤレヤレみたいに肩を竦めてたけどそれこっちの気持ちだっつーの。

 そんでそれから更に無駄話が続くわけだ。オレの素晴らしい記憶力により復元した会話がこれだ。


「オズワルト、君の妹弟子はなかなか面白い形容の仕方をするね。顔がいいと誉められているはずなのに、言葉の節々に悪意を感じて素直に喜べないよ」

「アレク様とヨシュア様だけに限らないでしょう。これ全部読んで、素直に賞賛してた文が一つでもありましたか。我が妹ながら難儀な性格です」


 お前が言うな。


 皆声にはしなかったけど、絶対そう思ったね。初めて室内の三人の心が一致したのがあの瞬間だったわけだ。失礼しちゃうぜ全くとか思わなくもなかったけどまぁ、自覚してるから何も反論しなかったよ。オレって大人だよね。

 どっちかっつーと三人の態度に「カルフシアの人間って分かりやす! 捻くれてんのに方向一緒だから分かりやす!」って大爆笑だったんだが、表面的には何の変化も見せなかったから咎められる事はなかったな。いやー、やっぱお前との繋がり感じるわ。お前も記録にボロクソ書いてた時、表情筋は全然動かさなかっただろ。あっはっは。


 ――……しかし伏兵がいたんだな、これが。


「今だって、内心で失礼な事をお考えなんだろうな。その慇懃無礼な態度の下で何を思ってんだか」


 マジかー。ストライクなんだがどう返すべきか悩むよな。


 ちなみちこれ、レグルスの台詞な。あ、レグルスって分かる? お前の記録「同僚」とか「元同僚」としか書いてなかったからお前が名前把握してるか分かんねぇんだよ。一応書いとく。


 あいつ、オレよか身分下だし喧嘩売るタイプじゃねぇから声には出してなかったんだけどな、つい強く思い過ぎちまったらしい。心の声としてオレの頭に響いちまったわけだ。

 本人も気付いたらしい。直後「げ、ヤバ」みたいな声も聞こえた。

 そっからは開き直ったみたいで、


「テメェあの時はよくも金ダライ落としてくれやがったな、あん? ボカスカボカスカ落としやがってシスコンが」

「シュリア様にある事ある事吹き込んでやるから覚悟しておけ」

「アルファ様にお前の監視要請を出す」

「うざい」


 実は最後の一言にかなり傷付いたんだがそれでも顔には出ない自分が少し悲しい。これ書き終えたらシュリアちゃんの所に行って癒されよう。


 ……え、シュリアちゃんが呼んでる? マジで? あ、やば思わずそのまま書いちまった。

 あー、そんなわけだからラヴェンナ。オレ行くわ。んで、つまりな、言いたかったのはアレだ。レグルスってオレの親友なんだよ。あと、ユリシスいんじゃん? あいつ生きてるから。その内会いに行くっつってたな。

 じゃあなラヴェンナ。寝過ぎてると体力落ちるから早めに目ぇ覚ませよ。




 妹想いの優しい兄ちゃんより


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