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辞令

今回は前後で視点が変わります。

暗殺者→カルフシア宰相




 なんぼも初めばして。突然の手紙ば許すてけろ。手紙のんて書いたごどねぇべよ。変なごど書いであっても怒らねぇでけろ。


 オラは、オジョーサンにさお願ぇがあるんでずぅ。オラんことば助けて欲しいじゃ。助けてけろ。


 最近眠れねぇ日が続いてでゃ。今まではオラの方が「眠れるぅ思うなよ」言うて怖がらぜで闇さ乗じてグサリする立場だったんじゃが、近頃はオラがなんぼ怯えて逃げるばかりじゃ。こないだまでオラが仕留めできた人たじの気持ちが分かりますたぁ。たんげ怖いじゃ。すんげー怖いじゃ。

 昔、田舎のおっかーが「人の嫌がる事はやっちゃあかん」教えでぐれますたぁ。だはんで、オラはもう暗殺稼業は足洗おうど思うとよ。すんごぐ怖いじゃ。

 だば仕方ねぇべや。仕事だったんだべ。だけんどあの人ネチネチ追い回してぐるんじゃ。オラじゃねかったら100編は死んでたきゃ。どんだげ金積まれでも、もうカルフシアのお姫さまは絶対攫わね。関わりたぐね。たげ怖いじゃ。


 オラは暗殺止めばす。止めたでもう追い掛かけねぇでけろ。綺麗さっぱり忘れてけろ。生きでてすいばせん。



 あの人に伝えて欲しいじゃ。そんで追い掛けねぇで欲しいじゃ。オラんことば助けてけろ。たのむっっきゃ!!


 オジョーサンはあの人の手綱ば握っでいるど聞きますたぁ。だはんでオジョーサンだけが頼りだぁ。どうかどうか、たのむっきゃ。オラば助けてけろ!




 オズワルトサン頭おかじいど思う。



―――――――――

――――――

――――



 ラヴェンナ殿、無礼を許されよ。本来ならば席を設けて対面を果たしたいところだが、生憎と事後処理に追われて時間がとれない。挨拶もせず要件だけ記すが、見舞いの言葉さえ述べる事をしないのを不快に思わないで頂けたら有難い。


 貴殿は同封の手紙を読んだだろうか。まだなら先に読んで欲しい。読んでくれたなら分かるだろうが、彼の命は貴殿の言動に懸かっている。即刻オズボーン殿に、同情すべき彼のための赦しを乞うて欲しいのだ。情けをかけて欲しいのだ。

 ラヴェンナ殿もご存知だろう、金でオブレシア国に雇われ、我が国の王女をかどわかした暗殺者の事を。

 彼がその暗殺者だ。

 ……言いたい事は分かる。信じられないのだろう。私も、彼が深夜に私の私室に文字通り飛び込んで正体を明かした時は信じられなかった。世間を騒がす冷酷非道な暗殺者が……あー、彼のような、ある意味、うむ、片田舎の純朴な農夫の様な男だと、一体誰が考えよう。

 しかし、彼の言う事は真実だった。幾つか質問したが、その返答の内容は、彼が暗殺者である事を十分に裏付けるものだった。そも、伊達や酔狂で鉄壁の守りを誇る宰相の屋敷に潜入する者など、いはしまい。


「田舎だきゃぁ金なんぎゃほどんどねぇし、間引かれんのも嫌だったけぇ、頑張って鍛えてたんだべ。きやあんつかどってんぐきやいわったどのっちゃっだでよ、何でも屋みてぇのおっぱじめでみたんだぎゃ、何でか暗殺依頼ばっかし入っちもうて、金がいっばい入るきぃ、まぁいいっぺよぅ思ぅて仕事続けてたんだぎゃあ、あるぅ日お姫さま攫ってごい言われで実行して報酬貰ってがえっだら、たきゃあんつかお姫さまの婚約者だが旦那ざんだかがけっだい怒っでオラんごど捜してんばっていやんかって仕事だったんじゃし意味分かんらんべよ何で毎日が生死ば懸けだ生き残り競争しでんだべぇ!?」


 彼が涙を流し、切々と訴えたのは以上の言葉だ。訛りが酷くて確証はないが、おそらくこう言っていたのだろう。


「田舎じゃ収入ほとんどないし、間引かれるのも嫌だったんで、頑張って鍛えてたらなんかびっくりするくらい強くなっちゃってたんで、何でも屋みたいなの始めてみたら、何でか暗殺依頼ばっかり入るようになって、収入いいからまぁいいやって思って仕事続けてたらある日お姫さま攫ってこいって言われて実行して報酬貰ってバイバイしたらなんかお姫さまの婚約者だか旦那さんだかがちょー怒ってオラのこと捜してんだけどいやいやだって仕事だったんだよ意味分かんない何で毎日が生死を懸けた生き残り競争!?」


 つい同情してしまった。


 王女殿下の誘拐事件計画は、事前に情報が渡っていたため知りえていた事だった。しかし敢えて手を打たず、殿下を囮にして動いたのであるから、此方としては暗殺者の彼より余程えげつない事をしていた自覚はある。

 件の謀略には殿下の兄であるユリシス殿が一枚噛んでいたため、殿下に危険が及ぶ事はないだろうとも思っていたのだが、想定外にもオブレシアの宰相が暴走した。オブレシアの宰相は冷静冷徹冷血冷酷な男色家と聞いていたから、間違っても彼自身が殿下に手を出すとは思っていなかったのだ。

 殿下には深くお詫びしたが、謝っても謝りきれるものではないだろう。救いなのは、殿下が可憐な外見に見合わぬ豪快な性格をしている事と、助けに駆け付けたオズボーン殿の“慰め”の方の衝撃が強かったようで、直前の行為を記憶から抹消された事だ。もっとも、以来オズボーン殿が近付く度に、呪文……いや、呪咀の様に「変態去れ変態去れ変態去れ変態去れ」と呟かれる姿が見られる様になったのだが。

 失礼、話が逸れた。

 王女殿下の誘拐事件計画は、私は勿論、国の中枢を支える者は皆知っていたのだ。王女殿下自身も、オズボーン殿も。

 だからオズボーン殿があそこまで怒り狂ったのはギルティ宰相に対してであり、本来ならば暗殺者にまでその怒りが向く事はなかったはずである。彼が殿下を攫う事を黙認していたのは、私たちなのだから。


 では何故オズボーン殿が憤っているか。

 それは暗殺者の彼がカルフシアにて王女殿下と初めて対面した時の会話(王女殿下が後日にこにこと語って下さった)による。


「…………(じー)」

「……何かしら」

「んだ、オラ、お姫さまぐらいきれいな女の子、初めで見ただ(満面の笑み)」

「ぁ、ありがとう……(赤面)」


 つまり嫉妬だ。


 このままでは、暗殺者の彼が非常に不憫でならない。ラヴェンナ殿、貴殿の兄弟子に、どうか口添えを頼みたい。




 カルフシア宮廷尚書省長官 一の宰相 ミュレトス=ピュシス





 ああ、そうだ。忘れていた。



 ラヴェンナ=ルシェド殿


 貴殿をカルフシア宮廷書記官に任ず。身体が治り次第任務に就かれたし。


第二章は終了です。

次話から書記官視点に戻ります。

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