エガオガキエタヒ
リオネットは、どんな深い傷を見ても笑顔を崩さなかった。
そんな彼の笑顔が消えたのは………
聖戦という名の戦争が続いていた。
既に一か月ほど経ったのではないだろうか。
闘いはまだ続いていて……終わる気配を見せなかった。
他の生徒達が囁き合っていた。
生徒9「なぁ…最近、リオネットの様子……おかしくないか?」
生徒1「様子はおかしくないが……表情が無くなってきていると言うか……」
生徒2「そうそう、あんまり笑わなくなってきてんだよな…。」
最初は笑みを見せていたリオネットも、流石に笑みが無くなってきていた。
生徒9「やっぱり、流石に精神がすり減ってきてたのかな?」
生徒2「この闘いが終わらない限りはずっと続くのかもな……。」
生徒達は、皆で溜息をついた。
その頃……リオネットこと、エンは目を固くつぶっていた。
“声”が聞こえるからだ。
その“声”は……苦しみや憎しみ等を訴えかけてくる。
しかも、他の誰にも聞こえていなかった。
『苦しい……苦しいなぁ…』
『誰?誰がこんな争いを起こしたの?』
『早く…早く助けて!!!!』
…たまに…ヒトが持っている醜さも聞こえてきた。
『邪魔だ!俺だけが助かればいいんだ!』
『子供?そんなの居ないわ!だって捨ててきたもの!』
『ママァ…!!どこぉ…!?』
それらの声は……闇の魔法にも似ていた。
ただ、魔法よりも暗く、凶悪な空気を秘めていたが…。
元々魔法を吸収する性質を持っているエンにとっては、難しい闘いだった。
今までは治療する皆の事を考えて乗り越えていたが……それも、限界が来ていた。
気付けば、エンは堕天使の姿のまま、戦場の真っただ中を歩いていた。
その虚ろな眼は何も映さず、フラフラと頼りなく歩いていた。
敵兵が気付いて、刀を振り下ろしたが…エンは片手で受けとめ、そのまま投げ飛ばす。
それを見た敵兵は、50人ほど集めてきて…エンを囲んだ。
エンは手に流れる血を舐めてニヤリと笑うと…走った。
一度、物陰に入って…出てきた時には、真っ黒な姿をしていた。
左腕と右足は真っ黒な鱗におおわれていて…それ以外の部分は黒い服で隠していた。
よくよく見ると、左手の爪が異様に伸び、鉤爪の様になっていた。
そして再び嗤うと……速度を上げた。
その後は――敵兵の悲鳴が響いた。
どんな武器よりも硬い爪が、脆く弱い兵達を貫いてゆく。
その勢いに押されて、兵士達はジリジリと後退していった。
だが、逃げるのは許さないとばかりに、エンは次々と葬って行った。
その場にいた全ての敵兵が倒れる頃…エンの姿は返り血で、凄惨なモノになっていた。
エンは虚ろになった目で自身の手を見下ろした。
血だらけのそれを洗う為に、近くの湖に寄った。
そこに映るのは、血に染まったエン自身。
だが…小さく首を振る。
――これは誰だ??
――自分な筈がない…だって、私は皆を治療する為に……
――でも、映っているのは自分だ
――…………誰だ……私は…。
嗤った。
自分が誰なのか分からなくて。
嗤った。
血に染まった自分が信じられなくて。
嗤った…嗤った……。
そしてこの日から……エンはワラウのを止めた。
闇は少しずつ大きくなって行く。
放出する方法も分からないから大きくなってしまう。
闇の中で……見つけるのは何?