雨が降ってきた
「わ。雨が降ってきた」
彼女が下駄箱を出、手のひらを上に向け雫を受ける。
俺も空を見上げ、黒い雲が白い雲を襲っているような様子に、げんなりする。
この時期、雨が降ると蒸し暑いんだよなと思いながら、カバンを探す。
「あれ? あれ? 傘がない」
確かに入れたはずなのに、何故と戸惑っていると、彼女がオレンジ色の傘を取リ出す。
「一緒に行こう?」
雨の音よりも響く彼女の美しい声。
俺は思わず「おう」と答えてしまった。
本当は俺が傘をさして、誘いたかったのにと悔しがる。
「俺が持つから。そのほうが入りやすいと思うし」
彼女から傘を譲り受けると、外へ歩き出す。
雨の独特の香り。
すっとした中に草木の香りがし、滝の飛沫を浴びているような清涼感。
雨は嫌いではないが、大量に降られるのは困る。
彼女を見れば、肩が濡れているようなので、傘をずらす。
自分は濡れてもいいが彼女だけは、守りたかった。
しかも下着が見えるなんてことは、絶対に避けたかった。
「もっとこっちに来い。俺は濡れても平気だけど、お前に風邪をひかれたら困る」
「ありがとう」
彼女は柔らかく微笑むと、俺に一歩、近づいてくる。
肩と肩がぶつかり、密着した形となる。
俺はドキドキが伝わらないように、息を細く吐き出す。
抱きしめたくなるだろう、馬鹿野郎、と1人で悶々としていると、彼女が見上げてくる。
「大丈夫? 冷たくない?」
優しい言葉に、俺は感動する。
「大丈夫だ。それよりも、お前は…濡れていないな。よしよし」
俺は満足そうにすると、彼女に聞く。
「どこかに寄っていくか?」
「そうね…。あなたと一緒なら、どこでも行くわ」
「え…」
すごい台詞に、俺はしばし戸惑う。
それを見て、彼女も口を押さえ、顔を赤くする。
「ごめん、今のは忘れて」
「忘れるものか。俺は嬉しい」
はっきり言うと、俺も顔を赤くする。
2人は雨の中、黙って歩く。
雨の音よりも、心臓の音がうるさかった。
「カラオケでも行く?」
「そうだな。雨宿りするか」
「おー!!」
彼女が腕を上げ、笑顔を作る。
その笑顔が曇らないようにしてやる、と俺は決意したのだった。




