惑星リフォーム業者
一 クレームの星
地球が「もう住めない」と宣告されてから、半世紀が経つ。
人類は散った。太陽系の外へ。恒星間航行が実用化されてからの五十年で、七十以上の星に入植地が作られた。だが、新しい星が最初から快適なわけがない。大気が薄い。水がない。土壌が酸性すぎる。気温が極端。——そこで俺たちの仕事がある。テラフォーミング。星の環境を人間が住めるように作り替える。大気を調整し、海を注ぎ、山を盛り、植物を育てる。壮大で、崇高で、人類の未来を切り開く仕事——のはずだった。
現実は、朝のミーティングがクレームの読み上げから始まる。
「えー、本日のクレームです。ケプラー第七植民星より。『海の色が青すぎる。もう少し緑がかった色にしろ。地球の瀬戸内海はこんな色じゃなかった』」
部下のタカハシが、端末を読み上げる。二十六歳。入社三年目。テラフォーミング学科卒。学生時代の夢は「人類の新天地を創ること」だったらしいが、今の仕事は「海の色が気に入らない」というクレームの処理だ。夢と現実の距離は、恒星間航行より遠い。
「次。グリーゼ第三入植地より。『山が足りない。申請では標高三千メートル級を五つ発注したが、三つしかない。残り二つはどうした』」
「あれは予算不足で三つに減らしたと通知済みだ」
「通知は読んでいないそうです」
「……なぜ読まない」
「『読む暇がない。山を眺める暇もないのに通知なんか読めるか』だそうです」
俺は——「第三セクター惑星開発」の社長、アオキ・ケンジ、五十四歳——端末に映るクレーム一覧を眺めながら、五杯目のコーヒーを飲んだ。合成コーヒーだ。味は八十点。地球時代のコーヒーを知っている世代はもう少ない。俺は四歳の時に地球を離れた。ギリギリ知っている最後の世代だ。大人になってから、わずかに残っていた地球産の豆を飲んだことがある。あの酸味と苦味のバランスは、合成では再現できない。——しようとしたことはある。クレームが来た。「地球のコーヒーと違う」。知ってる。
「次はなんだ」
「シリウスB植民星より。『夕日の角度がおかしい。地球では太陽は西に沈んだ。この星では北西に沈む。修正しろ』」
「……恒星の位置を変えろと?」
「そうです」
「物理法則に言え」
これが、俺たちの仕事だ。
注文通りに山を作り、海を配置し、木を植えて、空気の成分を調整する。納品したら検収。検収が通ったら入植。入植したら——クレーム。
一番多いクレームが何か、知っているか。
「地球に似ていない」。
……似せてるんだよ。データ上は。仕様書通りに。
それでも「似ていない」と言う。何がどう似ていないのかは、誰も説明できない。ただ「これじゃない」とだけ言う。
俺はコーヒーを飲み干した。合成コーヒー。八十点。——この「足りない二十点」が、たぶん全部のクレームの正体だ。
* * *
二 下請けの矜持
「第三セクター惑星開発」は、業界最大手「ギャラクシー・テラフォーム社」の下請けだ。
元請けが受注して、設計して、仕様書を書く。俺たちは仕様書通りに現場で施工する。山を盛り、海を掘り、大気を撹拌する。地味な仕事だ。華やかさはない。学会に呼ばれることもない。「テラフォーミングの匠」みたいな番組に出ることもない。——そもそもそんな番組はない。
社員は俺を含めて四人。
タカハシ。二十六歳。大気組成担当。理想主義者。「いつかこの技術で、地球を再生できるかもしれない」と本気で言う。いいやつだが、甘い。
マエダ。三十八歳。地質・地形担当。無口。「山はいい。クレームを言わないから」が座右の銘。山にだけは愛情がある。
コバヤシ。四十五歳。水文・海洋担当。バツイチ。「海の色が違う」のクレームを受けるたびに、元妻に「お前と暮らした海はもう見れない」とポエムを送っている。ブロックされている。
そして俺、アオキ。五十四歳。社長兼営業兼経理兼クレーム対応。前職はギャラクシー・テラフォーム社の設計部。十五年勤めて、独立した。理由は単純だ。元請けの仕様書が「住民の顔が見えない設計」ばかりだったから。
テラフォーミングは本来、「そこに住む人が幸せに暮らせる環境を作る」仕事だ。だが、元請けの設計部にいると、住民は「データ」でしかない。大気組成のパーセンテージと、海面温度の数値と、植生の被覆率。——それは間違いではないが、足りない。
住む人の顔が見えないテラフォーミングは、住む人のいない家を建てるのと同じだ。
独立して十年。下請けの分際で住民と直接やり取りするのは異例だが、俺はそれを譲らなかった。だからクレームも直接来る。多い。うるさい。理不尽。——でも、顔が見える。
「社長、次のクレームです」
「まだあるのか」
「ケプラー第七植民星、追加です。『虫がいない。虫を入れろ。花粉の媒介ができない』」
「……正論だな。虫を入れよう」
「入れます。——あ、去年のシリウスBのことを思い出してください。虫を入れた翌月に『虫が多すぎる。全部殺せ』って来ました」
「覚えてる」
「今回もそうなりますか?」
「なる。絶対なる」
「じゃあ入れるの、やめますか?」
「入れる。花粉の媒介は必要だ。——クレームが来たら対応すればいい。それが仕事だ」
タカハシが首をかしげた。
「社長って、なんでそんなにクレーム対応が嫌いじゃないんですか。普通、嫌でしょう」
「嫌だよ。大嫌いだ。——でもな、クレームを言うってことは、その星に住む気があるってことだ。本当にどうでもいい星なら、文句も言わずに出ていく。文句を言うのは——そこを自分の星だと思ってる証拠だ」
タカハシが黙った。
——いい子だ。理想主義者で、甘くて、でも黙るべきところで黙れる。
* * *
三 地球を知らない世代
ある日、大口の案件が来た。
新規植民星「ニューテラ第八号」。旧日本圏の移民コミュニティで、人口五万人の入植予定。一部区画ではすでに先行入植(テスト居住)が始まっている。予算は中規模。施工期間は三年。
仕様書を読む。
『大気組成:窒素七十八パーセント、酸素二十一パーセント、その他一パーセント。海洋面積:惑星表面の六十パーセント。山岳:標高三千メートル級を三基。植生:温帯型。気候帯:四季あり。特記事項:地球に可能な限り似せること』
「……また『地球に似せろ』か」
マエダが仕様書をちらりと見てつぶやいた。
「毎回これだ。地球に似せろ、地球に似せろ。もうパッケージにしたらどうですか。『地球パック』。山三つ、海六割、四季つき」
「実際、七割の案件が地球パックで済む」
「じゃあ三割は?」
「『地球パックだけど、ここだけ違うのにしてほしい』ってやつだ。——面倒な三割だ」
施工が始まった。マエダが山を盛り、コバヤシが海を注ぎ、タカハシが大気を調整する。俺は住民代表との打ち合わせに出る。
住民代表はヤマモトという四十代の女性だった。入植団のリーダー。テキパキしていて、頭がいい。——そして、地球を知らない世代だった。
「ヤマモトさんは地球をご存じですか」
「データでは知っています。映像も記録も見ました。でも、行ったことはありません。——もう行けないでしょう?」
「ええ。地球は五十年前に居住不能になりました」
「では、私たちの世代は『地球に似せろ』と言いながら、地球を知らないんです。矛盾していますよね」
「……矛盾しています」
「でも、親や祖父母から聞いた話があるんです。『地球の空はこんな色だった』『地球の海はこんな匂いがした』『地球の夕日はこんなに赤かった』。——データじゃないんです。記憶なんです。しかも、自分の記憶ですらない。聞いた記憶」
俺は黙って聞いた。
「だから、クレームが出るんだと思います。データ通りに作っても、おじいちゃんが話してくれた地球とは違う。——その違いが言語化できないから、『海の色が違う』としか言えないんです」
ヤマモトは笑った。少し寂しそうに。
「本当は、『おじいちゃんの地球が欲しい』って言いたいんですよ。でもそれは、仕様書には書けないでしょう?」
「……書けません」
「ですよね。だからクレームになる」
——なるほど。
クレームの正体が、少し見えた気がした。
* * *
四 仕様書にないもの
施工は順調に進んだ。——クレーム以外は。
「大気の湿度が高すぎる」。修正した。
「土の匂いがしない」。微生物を追加した。
「風がぬるい」。気候システムを調整した。
そして来た。予想通りのクレームが。
「夕日が赤くない」
タカハシが頭を抱えた。
「赤いですよ! 散乱スペクトル、完全に地球と同一に設定してます!」
「データ上はな。でも住民は赤くないと言っている」
「どうすればいいんですか。これ以上赤くしたら、大気組成がおかしくなります」
俺はヤマモトに電話をかけた。
「夕日の件、詳しく教えてもらえますか」
「ええ。入植者の何人かが、『夕日を見ても地球を思い出さない』と言っています」
「赤さの問題ではなく?」
「……赤さの問題ではないんだと思います。『これじゃない感』なんです」
「何が足りないんでしょう」
「分かりません。分かったらクレームではなく仕様変更で出しています」
電話を切って、俺は考えた。
赤さは同じ。角度も同じ。大気の散乱率も同じ。——データ上は完璧な地球の夕日。
何が違う?
マエダが横でコーヒーを飲みながら言った。
「……社長。夕日って、空だけの話じゃないですよね」
「何だ?」
「夕日って——電柱の影とか、帰り道の匂いとか、カラスの声とか、そういうのと一緒に見るもんでしょう。この星には電柱もカラスもない。——だから、『これじゃない』んですよ」
マエダは無口だが、たまに核心を突く。
——そうか。
テラフォーミングの仕様書には「大気組成」「地形」「水文」「植生」は書いてある。だが、「電柱」は書いていない。「カラスの声」も書いていない。「帰り道の匂い」も書いていない。
仕様書に書けないものが、「地球」を「地球」にしていた。
* * *
五 データにない景色
俺は、ヤマモトに会いに行った。
入植地の仮設オフィス。窓の外には、コバヤシが作った海が広がっている。青い。きれいだ。——でも、瀬戸内海じゃない。
「ヤマモトさん。一つ、提案があります」
「はい」
「仕様書にないものを作らせてください」
「仕様書にないもの?」
「入植者の皆さんに、聞いてほしいんです。『地球のどんな景色を覚えていますか』と。データじゃなくて、記憶の景色を」
ヤマモトが目を見開いた。
「それを——テラフォーミングに反映する?」
「します」
「予算は?」
「うちが持ちます」
「——赤字になりますよ」
「なる。たぶん大赤字だ。——でもな、仕様書通りの星を作って、住民が『これじゃない』と思い続ける星を納品したら、リフォーム業者として負けだ」
ヤマモトが笑った。今度は、寂しそうではなかった。
入植者五万人にアンケートを取った。
質問はひとつ。
「あなたが覚えている、地球の景色を教えてください」
回答が集まった。四万件以上。驚くほどの回収率だった。
「小学校の屋上から見た入道雲」
「実家の裏の田んぼの匂い」
「線路沿いの桜並木」
「夕方のチャイムの音」
「お祭りの屋台の焼きそばの煙」
「縁側で食べたスイカの種を庭に飛ばしたこと」
「祖父の畑の土の手触り」
——データは一件もなかった。
全部、記憶だった。
しかも、回答者の八割は地球を知らない世代だ。親から、祖父母から、聞いた話を書いている。自分の記憶ですらない。誰かの記憶の断片。それが「地球」になっている。
俺はその膨大な回答を読みながら、コーヒーを飲んだ。合成コーヒー。八十点。
——この回答の中に、「コーヒーの味」は一件もなかった。みんな、合成コーヒーで育っている。地球のコーヒーを知らない。
知らないものは、懐かしがれない。
だが、知っているものは——聞いただけでも、懐かしがれる。
人間は、実際に体験していない記憶すら、「懐かしい」と感じることができる。
——不思議な生き物だ。
* * *
六 仕様書外工事
俺たちは、仕様書にないものを作り始めた。
マエダが丘の上に一本だけ木を植えた。入植者の一人が「祖母の家の前にあった大きな木」と書いたからだ。もちろん同じ木ではない。だが、丘の上にぽつんと一本だけ立つ木には、何かがある。
コバヤシが海岸の一か所に、少しだけ磯の匂いを足した。「潮の匂い」と書いた人が三百人いた。大気成分で再現するのは難しい。コバヤシは「海藻を植えればいいんだ」と言って、無理やり海藻を繁殖させた。翌朝、海岸は磯の匂いがした。——ついでに海藻だらけになった。
「コバヤシさん、海藻が多すぎます」
「海藻が多い海岸は地球っぽいだろう」
「確かに」
タカハシが大気に「夕方の湿り気」を加えた。日中は乾燥していて、夕方だけ少しだけ湿度が上がる。そうすると夕日の散乱が変わって、空がほんの少しだけ——言葉にできないくらい微妙に——オレンジがかる。
「これ……仕様書にないですよね」
「ない。でも、地球の夕方ってこんな感じだった気がする」
「気がする、で大気をいじっていいんですか」
「いいかどうかは分からない。でも、データ通りに作った夕日が『これじゃない』なら、データにないものを足すしかないだろう」
最後に、俺は音響を入れた。
住民のアンケートに「夕方のチャイムの音」が百件以上あった。五時のチャイム。あの「夕焼け小焼け」のやつだ。
入植地の広場にスピーカーを設置し、毎日午後五時に鳴らすことにした。
「社長、これはテラフォーミングですか?」
「テラフォーミングじゃない。『ホームメイキング』だ」
タカハシが首をかしげた。
——若いから分からなくても仕方ない。
テラフォーミングは「惑星を人が住めるようにする」仕事だ。
ホームメイキングは「星を故郷にする」仕事だ。
住める星と、帰りたい星は、違う。
* * *
七 夕日の検収
仕様書外工事が終わった。
ヤマモトと一緒に、丘の上に立った。一本だけ植えた木の下。夕方だ。
風が吹いた。少しだけ湿った、夕方の風。
海から磯の匂いがかすかに届く。
太陽が沈み始めた。空がオレンジに染まっていく。データ通りの赤ではない。少しだけズレた、「気がする」オレンジ。
午後五時。
広場のスピーカーから、チャイムが鳴った。
「夕焼け小焼け」。
ヤマモトが、何も言わずに立っていた。
しばらくして、小さく言った。
「……おばあちゃんが言ってた。地球の夕日は、こんな感じだったって」
「似てますか」
「分かりません。見たことないから。——でも、……懐かしいです」
見たことのない景色を、懐かしいと感じる。
それが、仕様書には書けないものの正体だ。
「……社長。これ、大赤字ですよね」
「大赤字だ。コバヤシの海藻が予想外に繁殖して、追加コストもかかった」
「請求、どうするんですか」
「しない。これは——下請けの矜持だ」
ヤマモトが笑った。
「矜持で飯は食えませんよ」
「食えない。だからコーヒーは合成だ」
二人で、しばらく夕日を見ていた。
どこかで、子供の笑い声がした。この星で生まれた子供だ。地球を知らない。親の記憶の地球も知らない。
この子にとって、この夕日が「故郷の夕日」になる。
——それでいい。
テラフォーミングの仕事は、地球を再現することではない。
新しい故郷を作ることだ。
* * *
八 社長のクレーム
——それから一ヶ月が経った。夕方の終礼ミーティング。
「えー、本日のクレームです」
タカハシが読み上げを始める。
「ニューテラ第八号より。『チャイムの音量が大きすぎる。もう少し小さくしてくれ』」
俺はコーヒーを飲んだ。合成コーヒー。八十点。
「もう一件。ニューテラ第八号より。『海藻が多すぎる』」
「……コバヤシに言え」
「コバヤシさんは『海藻は地球っぽい』と言っています」
「地球っぽくても多すぎるものは多すぎる。半分に減らせ」
「はい。——あと、一件。ギャラクシー・テラフォーム社より」
「元請けから?」
「はい。『仕様書にない工事が報告されている。チャイム? 海藻? 一本の木? 何をやっている。始末書を提出しろ』」
俺はコーヒーを置いた。
「分かった。始末書は書く。——ただし、クレーム件数を報告しろ。仕様書外工事をやった後、ニューテラ第八号からのクレームが何件減ったか」
タカハシが端末を操作した。
「……あ」
「何件だ」
「仕様書外工事の前は、月間百二十件でした。工事後は——八件です」
「そのうちの二件が『チャイムが大きい』と『海藻が多い』だな」
「はい」
「百二十件が八件になった。——それが始末書の内容だ」
タカハシが端末を閉じた。
「社長」
「なんだ」
「テラフォーミング学科では、こういうこと教えてくれませんでした」
「教えるわけがない。——仕様書にないことは、教科書にも載ってない」
「じゃあ、どこで学ぶんですか」
「クレームからだ。——クレームは、住民からの手紙だと思え。『ここを自分の故郷にしたい』って書いてあるんだ。字は汚いし、文句ばっかりだけどな」
タカハシが、少しだけ笑った。
「社長、一つだけ聞いていいですか」
「なんだ」
「社長は地球、好きだったんですか」
俺は窓の外を見た。ニューテラ第八号の空。まだ完璧じゃない。雲の形がちょっと違う。夕日のオレンジは合格だが、朝焼けがまだ弱い。——直す。
「好きだったよ。——好きだった」
タカハシが、静かに聞いている。
「人類は地球を壊したんだ。資源を食い尽くして、海を汚して、空気を濁らせて。自分たちで住めなくして、『もう駄目だ』って飛び出した。——捨てたんだよ。自分たちの手で」
「……」
「なのに、新しい星に着いたら何て言う? ——『地球に似ていない』だ」
俺は笑った。
「壊して、捨てて、逃げ出して。それでもまだ地球が欲しい。地球みたいな夕日が見たい。地球みたいな風が吹いてほしい。地球みたいな匂いがしてほしい。——もう、どこにもないのに」
「……社長」
「それが人間だ。自分で壊したものを、一生欲しがる。馬鹿だよ。——でも、その馬鹿さが、俺は嫌いじゃない」
「……それって、社長のクレームですか」
「そうだ。俺のクレームだ。——宛先は、地球を大事にしなかった全人類宛てだ」
タカハシが黙った。
マエダがコーヒーを持ってきた。合成コーヒー。八十点。
「社長。クレームの返信、書きますか」
「書く。——『チャイムの音量を三デシベル下げます。海藻は半分に減らします。夕日については引き続き調整中です。——第三セクター惑星開発、アオキ』」
「社長、いつも思うんですけど、返信が丁寧ですよね」
「当たり前だ。クレームに返事を書くのは——手紙に返事を書くのと同じだ」
窓の外で、五時のチャイムが鳴った。
ニューテラ第八号の夕日が、少しだけオレンジに染まっている。
——地球じゃない。どこにも、もう地球はない。
人類が自分で壊した。自分で捨てた。
それでも——チャイムが鳴って、磯の匂いがして、丘の上に木が一本立っている。
壊して、捨てて、それでも欲しがって。その「欲しがる気持ち」の断片を集めて、俺たちは今日も星を作っている。
全部は取り戻せない。たぶん、一生取り戻せない。
でも——少しだけ、近づける。
それが、テラフォーミングだ。
(完)
お読みいただきありがとうございます。
テラフォーミング——SFではおなじみの概念ですよね。映画にも小説にもゲームにもよく出てくる。でも、たいていは「壮大な技術」として描かれる。大気を変え、海を作り、人が住める星にする。かっこいい。ロマンがある。——じゃあ実際にやったら、現場はどうなるんだろう? たぶん、リフォーム業者みたいにクレーム対応してるんじゃないか。そう思って書きました。
地球を壊して、捨てて、逃げ出して。それでもまだ地球が欲しい。——その矛盾が、たぶん人間の一番人間らしいところだと思います。
故郷は、データでは作れない。
でも、記憶の断片を集めれば——少しだけ、近づける。
テラフォーミングの仕事は、星を作ることではなく、故郷を作ることだ。
——社長のこの言葉が、誰かの心に残れば嬉しいです。
☆評価・ブックマーク・感想——どれか一つでも、ものすごく励みになります。
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→【連載版】チートで荒らされた領地に赴任したら、前世が地方公務員だったので普通の行政で立て直すことにした
短編で描いた「チートなし・前世の経験だけで異世界の問題を解決する」を、連載のスケールで書いています。排水溝の掃除から始まる地方行政の物語。地味です。派手なバトルはありません。——でも、アオキ社長と同じように「現場で汗をかく凡人」の話が好きな方には、きっと楽しんでいただけると思います。
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