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工学系女子シリーズ(異世界・恋愛、仕事)

【工学系女子シリーズ④】薬師女子が追い返しても騎士団長が毎日来るので薬草採りに行くことになりました~辛口薬師×騎士と銃職人女子×勇者候補の王都ダブルデート~

作者: コフク
掲載日:2026/02/15

「悪いところないなら毎日来なくていいでしょう!!」

「確認は必要だ」

「必要ありません!」

王都一大きい薬局の奥で、白衣の女性が騎士団長を叱っていた。


――話は少し遡る。

________________________________________

王都アルセリオは、想像よりも大きかった。

城壁は高く、石畳は広く、行き交う人々は洗練されている。

「うわあ、広い! お店も沢山……」

屋台から漂う香ばしい匂いに、フェリアはきょろきょろと辺りを見回した。

「……まずはご飯だよな?」

隣でレオンが笑う。

「寮に入る前に、王都初ご飯。記念に」

「うん」

小さな食堂の扉を開けると、焼きたてのパンと肉の香りが広がった。

その時だった。

通りの向こうで怒号が上がる。


「囲め!」

鋭い声。

王都騎士団が盗賊を取り囲んでいた。

先頭に立つのは、背の高い男。銀の鎧、鋭い眼光、そして――左腕に巻かれた包帯。

男が一歩踏み出す。

「抵抗するな。命は奪わん」

低く、冷たい声。

盗賊の中で一番体格の良い男が剣を振るった。

瞬間、剣閃が走る。

一太刀。

鮮やかに弾き、返す刃で武器を落とさせる。

地に膝をつかせると、喉元に剣を突きつけた。

「生け捕りにしろ」

低く、厳しい声。

「はい! 団長、承知いたしました」

部下たちが素早く拘束する。

包帯を巻いた左腕を添えて、剣を収める。

騎士団は盗賊を連れて去っていった。


「騎士団長か。かっこいいな……」

レオンが小さく呟く。

フェリアもまた、呟く。

「銃、使わないのかな」

________________________________________

女子寮の入口に、レオンが馬車から下した荷物を置く。

レオンが入れるのはここまで。

フェリアは一人、大きな鞄を一つ持って部屋へ向かう。

二人部屋に入ると、勉強机に腰かけて、何か書いていた少女が振り返った。

「こんにちは。マレナ・ヴェントラ。造船志望よ」

「フェリア・ブラント。銃職人志望。よろしく」

短い挨拶をして、握手した。

(話しやすそうな子で、良かった)


寮の入口に残りの荷物を取りに戻った直後、フェリアが固まった。

「あ、常備薬持ってくるの、忘れた」

「大丈夫。荷物を置いたら、一緒に、買いに行こう」

レオンがフェリアの手を取る。

「毎日でも呼んで」

「そこまでは呼ばない」

寮の看守が、コホンと咳ばらいをした。


________________________________________

王都で一番大きな薬局は、治療院と併設されていた。

白い壁、清潔な石床。

治療院には怪我人が次々運び込まれ、医師が診断し、薬師が必要な薬を選び出す。

「次の方」

眼鏡の若い女性――リシェラ・ノインは、カウンターの奥で手際よく薬を量る。

「この軟膏は三日分出します。抗菌薬は一日一回、食後に飲んでください」

迷いなく、てきぱきと。

怪我人の表情が和らぐ。

「リシェラさんが薬出してくれると、いつも早く治って助かるよ」

「良かったです。お大事に」

最後は優しい笑顔。


リシェラはフェリアの薬も手際よく用意した。

「傷薬と、熱さまし。

あと喉の薬は、これがおすすめです。王都の空気は乾燥していますから」

「ありがとうございます。来たばかりで分からないので、助かります」

「困ったら、いつでもまた来てくださいね」


が、次にカウンター前に現れた人物を前に、怒声が響いた。

「だから! 悪いところないなら毎日来なくていいでしょう!!」

先ほどとうって変わって厳しい表情のリシェラが、鎧姿の大柄な男に怒鳴っていた。

「あれ、さっきの騎士団長さんだよね?」

レオンが気づき、フェリアも一緒に見守る。


騎士団長は、直立したまま言う。

「腕が……」

「どこが悪いんですか」

リシェラは左腕を掴み、手の包帯をほどいた。

無傷。

フェリアが小さく声を出す。

「あ」

騎士団長は真顔だった。

「昨日はあったが、治ったかな」

「治ったなら来なくていいでしょう!」

騎士団長は少し黙ってから言った。

「……顔を見に来た」

「アルヴェルトさん……私の顔は昨日と同じです。帰ってください。

 はい、次の方、お待たせしました――」

それが、冒頭の光景だった。

________________________________________

アルヴェルト騎士団長はそれでもまだ、横でじっと見ている。

(胃も心も掴まれたのは、あの日だ)

酷い怪我を負った時、彼女は夜通し看病してくれた。

その後も治るまで、毎日のように温かい食事を届けてくれた。

あの味。

毎日食べたい。

リシェラも俺も、良い歳だ。

結婚も視野に入れるべきだ。

真剣に考える。


考えて、言う。

「……薬草採りに行くなら手伝う」

フェリアは瞬きをした。

(あれ、なんだか聞いたことあるような台詞)

横を見るとレオンが深く頷いている。

「分かる」

「分かるの?」

「分かる」


リシェラがため息をついた。

「薬草は確かに不足していますけど……騎士団長が来る必要ありません」

「必要だ。護衛する」

「危険はありません」

「少しの危険からも、守りたい」

沈黙。

レオンが言った。

「二人だと行きにくいなら、僕ら含めて四人で行きますか?」

全員止まる。

「……え?」

「ほら、銃とか爆弾に必要な材料も、採れるんじゃない?」

「行く」

フェリアが目を輝かせる。

「決まりだ! では、週末に」

アルヴェルトは、満面の笑み。

リシェラも、しょうがないわね、という顔をする。


こうして、森へのダブルデートが決まった。


________________________________________

森に入ってすぐだった。

「……止まれ」

アルヴェルトが低く言う。

全員止まる。


視線の先に、

蝶がひらりと舞った。

次の瞬間。

アルヴェルトがリシェラに抱きついた。

「無理だ」

「離れなさい。騎士団長でしょう!!」

「毒があるかもしれない」

「この種類は毒ありません!」

それでも彼は背後に回る。

「護衛だ」

「蝶に護衛がいるのはあなただけです!」

抱きついたまましばらく動かない。

「離れてください」

アルヴェルトが残念そうに離れた。


フェリアが小声で言う。

「盗賊倒してた人だよね?」

「うん。僕も抱きついていい?」

「なんで?

――それより、雑魚敵用の爆弾撒いて良い?」

「うーん、薬草が焼けちゃうから、今は我慢して」

そう言いながら、レオンはフェリアの手だけ、握った。


________________________________________

その後、薬草採りは順調だった。

リシェラは薬局で必要な薬草をリストアップしてきていて、すぐに見つけて籠に入れていく。そして、アルヴェルトも慣れた手つきで、言われたものを正確に摘む。


リシェラがフェリアに言う。

「その木の樹液、乾くとゴム状になるわ」

「ゴム!?」

目が輝く。

「爆弾の固定材に使えるかも」

レオンが聞く。

「集める?」

「集める!」

二人は樹液採取を始めた。

レオンが剣で木に傷を付け、竹を割って汁を誘導する。フェリアがリュックから器を取り出して、溜めている。

アルヴェルトがちらっと見る。

「……仲いいな」

リシェラは無言で摘み続けた。


________________________________________

お昼になった。

湖の近くの開けたところを見つけ、リシェラが敷物を広げ、持ってきたサンドイッチを並べた。

「作ってきたの?」

フェリアが目を丸くする。

「人数増えたから多めにしただけ」

アルヴェルトはしばらく黙っていた。

「……手作り、一生の思い出に、大事に食べる」

「縁起でもないから、その言い方やめて」

アルヴェルトは一口食べ、止まる。

「絶妙な味付けだ」

「マスタードと蜂蜜、少し入れた」

「毎日食べたい」

 リシェラが照れたのか、黙っている。 


一方、レオンはフェリアの手を取る。

「俺も少し持ってきた。地元の郷土料理の、卵焼き」

「ほんと?」

フェリアが食べる。

「美味しい」

レオンが少し嬉しそうな顔をした。

「王都の生活で欲しくなったら、いつでも作るよ」


アルヴェルトはしょんぼりした。

「……作れる男の方がいいのか」

リシェラは言った。

「私は作る側だから、食べてもらう方がいいわよ」

アルヴェルトが固まる。顔が赤い。

「俺が良いって理解で良い?」

「それは誤解」________________________________________

一行が昼食を食べ終え、今日は騎士団長も勇者候補もいるので、珍しい薬草の採取を、と、さらに奥へ進んだ時だった。

ガサガサっと音がして、木の間から、巨大な熊型の魔物が、現れた。


熊型魔物がザっと近づき、戦闘を開始した。

まず、アルヴェルトが前に出る。

剣が閃き、脇腹に切りつけた。

だが硬い。

「……強いな」

アルヴェルトの剣が弾かれる。

フェリアが小型爆弾を投げて、少しだが加勢する。

足元で弾け、熊の動きが止まる。

「今だ!」

アルヴェルトとレオンが同時に動いた。

左右から腕を斬りにかかる。

咆哮。

だが、切り落とすことはできず、

興奮した熊がリシェラへ襲いかかった。

「くっ!」

アルヴェルトが止めに入ろうとしたが、間に合わないと思った、その瞬間。


乾いた銃声。

フェリアの銃弾が額を撃ち抜いていた。

一同、沈黙。

目の前には、巨大な熊型魔物が倒れていた。

「一発で?」

アルヴェルトが、近づき、魔物が息をしていないことを確認した。即死だった。


「騎士団に入らないか」

「だめです」

レオン即答。

(騎士団なんてかっこいい男だらけのところに可愛いフェリアを入れるのは絶対だめ! でなくて……)

レオンは咳払いして、続けた。

「彼女の作る、銃が良いんです」

「銃、買えるのか」

「実家の武器屋にいる、父と兄に連絡すれば……」

リシェラがぽつりと言った。


それまで黙っていた、リシェラも、やっと震えが収まり、一言。

「彼女の方がいいの?」

 アルヴェルトは、急に表情を和らげる。

「嫉妬?」

「それは違う!」


――なお、後日、フェリアの家には、王都騎士団から銃の大量注文が届いたのだった。


________________________________________

夕暮れの帰り道。

四人で並んで歩く。

アルヴェルトは静かに考えていた。

(もう俺も、リシェラも、良い歳だ)

騎士団長としての立場も、収入も、覚悟もある。

(婚約……いや)

ちらりとリシェラを見る。

(婚約をすっ飛ばして即結婚でも良いかもしれない)

頷く。

決断した顔で口を開く。


「リシェラ」

「何ですか」

「ご両親はどこに住んでいる?」

空気が止まる。

「そろそろ一度ご挨拶しないと」

「なぜ今突然そういう話になるんですか?!」

リシェラの声が少し高くなる。

「いきなり外堀から埋めようとするな!」


アルヴェルトはまた、考える。

(じゃあ、直接責めて良いのか?いきなり結婚は難しい?俺の強み、広い家?)

「前に食事持って来てくれて知っているだろうが、部屋は沢山空いている。

――まずは一緒に住んでみるか?」

「何で、まず、が同棲なの!? 騎士団長の城攻めの戦略たてるプロがそれ??」

アルヴェルトは、頭を打たれた気分になる。

(そうか、俺の強みは、戦い。戦略を立てるなら、どうする? 

敵を知るところからか?)

「……まずは酒でも飲みに行かないか」

「良いわよ。美味しい店なら」

リシェラは少しだけ口元を緩めた。

(本気で喜んでいる)

「探しておく」


レオンは内心思う。

(王都騎士団長って、いきなり敵の懐に入るのか……)

フェリアはリュックを開けている。

「粘着弾、あと三つ……」


________________________________________

薬草の採集から数日後の夕方。

薬局は、忙しい時間帯を過ぎ、列も途切れていた。


アルヴェルトがやってきて、リシェラに花束を差し出して、言った。

「エキナセアだ」

リシェラが目を見開き、花束を受け取る。

「免疫向上の薬草……嬉しい」

「花言葉は、あなたの痛みを癒したい」

「調べたんですか」

「まあ、な。こんな少量では、薬にはならないだろうが、

 大量に取りたければ、また付き合う。

 今日は、この後、約束の酒を飲みに行かないか?」

リシェラが、すぐ奥にいた、若い男性薬師を振り返る。

「今日は、もう、大丈夫ですよ」

「……行けます」

 リシェラが頷き、アルヴェルトの手を取った。


(堅固な籠城戦ならば、セオリーは兵糧攻め。美味しい酒を何度も驕り、借りを返したいという彼女の飢 

 餓感を煽る。

 その後は食事を作ってくれと甘える。家では抵抗感があれば、また薬草採取に誘うのも良いだろう。

 そして、同時に内通者を作り、外堀は埋めて行く)

先ほどの男性薬師に目配せし、彼も頷く。


リシェラは花を見つめる。

(困る)

でも、嫌ではない。


アルヴェルトは決めている。

城は、必ず落とす。と。


お読みいただきありがとうございます。

今回は工学学院の女子ではないですが、理系お仕事女子を書いてみました。いかがでしたでしょうか?

今後、日曜日にまたシリーズの短編を出していければと思っています。

少しでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。

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