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第丗捌話 海の光と親子の誓い

波の音だけが響く、静寂の夜。

高校生の結衣は、海に面した祖父母の家で、ひとり庭に佇んでいた。

広い庭の奥には、少し傾いた古びた観測小屋がひっそりと立っている。

そこは、かつて海洋生物学者だった祖父が、海を眺めながら研究に没頭した場所だった。


「ねえ、結衣。何か悩みでもあるの?」

背後から祖母の優しい声がした。

結衣は肩をすくめ、答えずに海を見つめる。


「最近、祖父のことをよく考えるの」

その言葉に、祖母は静かに頷いた。

「主人は、いつも海の話をしてくれたわね。海は生きているって」


祖母の声を聞いていると、突然、海面が淡く輝き始めた。

満月の光が水面に落ちたような、神秘的な光。

やがてその光は形を変え、イルカのような姿へと変わっていく。


「あれは……」

結衣は息をのんだ。


光のイルカは波間を漂いながら、ゆっくりと結衣に近づいてくる。

そして澄んだ声で語りかけた。


「君が結衣だね?

僕はワタツミ。君の祖父に助けを求めに来たんだ」


次の瞬間、結衣の意識の中に、中学生ほどの優しい笑顔をした少年の姿が現れた。

彼は海の奥深くから来た知的な海洋生物で、結衣の祖父とは古い友人だという。


「君の祖父は、僕にとってかけがえのない存在だった。

海の大切さを誰よりも理解し、僕たちを助けてくれたんだ」


少年は、祖父と出会った海洋探査の思い出を語り、深い絆があったことを明かした。

そして今、海が危機に瀕していることを告げる。


「結衣、君の祖父に会わせてくれない?」


結衣は静かに首を振った。


「ワタツミ……祖父はもう、この世にいないの。病気で……」


少年はその場に立ち尽くした。

まるで海の波が一瞬止まったかのように。


「そんな……」

優しい笑顔がわずかにゆがみ、瞳に涙が浮かぶ。

「君の祖父と、もう一度会いたかったのに……」


夕焼けが海面を染め、波が静かに寄せては返す。


結衣はそっと少年の肩に手を置いた。


「でも、祖父はきっと今も海を見守っているよ。

そして、ワタツミと私が出会えたことを喜んでくれていると思う」


少年はしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。


「……そうだね。君の祖父なら、そう言ってくれるだろう。

ありがとう、結衣。少し心が軽くなったよ」


深呼吸をした少年は、表情を引き締めた。


「海の生態系が壊れ、多くの仲間が苦しんでいる。

君の祖父と交わした約束を果たすため、君の力を貸してほしい」


結衣は少年と共に、祖父の残した研究ノートや機器を調べ始めた。

そこには、祖父の深い愛情と海への情熱が詰まっていた。

祖父は、ただの学者ではなく、海を心から愛した人だった。


「祖父はいつも『海は私たちと繋がっている』って言ってたけど……

その意味が、今になって少し分かった気がする」


結衣は少年と協力し、海を救うための計画を立てていく。

海藻の再生、海洋汚染の対策、絶滅危惧種の保護――。


二人の努力は少しずつ実を結び、海は回復の兆しを見せ始めた。

海藻が再び揺れ、魚たちが戻ってくる。

そして少年も本来の姿に戻り、大海原へと帰っていった。


「本当にありがとう、結衣。

君は祖父と同じように、勇気と優しさで僕たちの海を救ってくれた」


そう言い残し、少年は光となって海へと消えていった。


透き通った海を見つめながら、結衣は深く息を吸い込む。

祖父とワタツミとの出会いは、彼女の人生を大きく変えた。

海を守ることこそ、自分の使命だと確信する。


「祖父、そしてワタツミ。

私はこれからも海を見守り続ける。

あなたたちの想いを胸に、この美しい海を守っていくと誓うよ」


波の音だけが響く中、結衣の心には希望と決意が満ちていた。


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