表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/37

最終話 スーパーフラット・ラストライト

陽葵は、

完全な姿を取り戻した魂のまま、

そっと和真の前に立った。


夜の公園の静けさの中で、

彼女の光だけが柔らかく揺れている。


陽葵は、

胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。

まるで勇気を振り絞るように。


そして──

震える声で言った。


『……まくん……

わたし……

まず……

あやまらなくちゃ……いけないの……』


和真は息を呑んだ。


陽葵は、

ゆっくりと顔を上げた。


その瞳には、

後悔と、

優しさと、

ずっと言えなかった想いが滲んでいた。


『……まくんが……

ひとりで……

くるしんで……

創り出した……

“フラットランド”……』


風がそっと吹き抜け、

陽葵の光が揺れた。


『……あれは……

まくんが……

こころを守るために……

つくった……

せかい……』


和真の胸が痛む。


陽葵は、

唇を噛みしめながら続けた。


『……わたし……

ときどきようすをみてたのに……

まくんを……

すくいだすことが……

できなかった……』


声が震えた。


『……ごめんなさい……

まくん……

ほんとうは……

いちばん……

そばにいたかったのに……

しんじつをつたえるのがこわくて……

なにも……

できなかった……』


その言葉は、

涙のように静かで、

でも確かに重かった。


和真は、

胸の奥が締めつけられるのを感じた。


(……陽葵……

君は……

そんなふうに……

思っていたんだ……)


陽葵は、

そっと手を伸ばした。


光の指先が、

和真の頬に触れそうな距離で止まる。


『……まくん……

ごめんなさい……

すくえなかった……

たすけられなかった……

でも……

いまは……

ちがうの……』


瞳がまっすぐに和真を見つめた。


『……いまのわたしは……

まくんに……

ほんとうのことを……

つたえられる……

だから……

きいて……ほしいの……』


その声は、

震えているのに、

どこか強かった。


陽葵は、

最後の勇気を振り絞るように息を吸った。


そして──


『……まくん……

ありがとう……そして、

だいすきだよ……』


その瞬間、

和真の胸の奥で、

長い間閉じ込められていた何かが

静かにほどけていった。



陽葵の言葉が夜の空気に溶けた瞬間、

和真の胸の奥で、

長い間固まっていた氷が静かに砕けていった。


痛みではなく、

悲しみでもなく、

ただ──

温かさだけが残った。


和真は、

震える息を吐きながら陽葵を見つめた。


「……陽葵……

君は……

何も悪くないよ……」


陽葵は、

そっと首を横に振った。


『……ううん……

わたし……

まくんを……

ひとりにしてしまった……

ほんとうは……

いちばんそばで……

まくんを……

まもりたかったのに……』


その声は、

涙のように柔らかかった。


和真は、

一歩、陽葵に近づいた。


「……陽葵。

僕は……

あの世界で……

ずっと君を探してた。

でも……

本当は……

君が僕を探してくれてたんだね」


陽葵の瞳が揺れた。


『……まくん……』


「君が……

僕を見てくれていたこと……

気づけなかったのは……

僕のほうだよ……」


陽葵は、

そっと目を伏せた。


『……まくん……

やさしい……

でも……

わたし……

ほんとうに……

まくんに……

“ありがとう”って……

いいたかったの……』


和真は、

胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……陽葵……

僕も……

君に言わせてほしい」


陽葵は顔を上げた。

その瞳は、

もう揺れていなかった。


和真は、

ゆっくりと手を伸ばした。


光の指先と、

和真の指先が、

ほんの少しだけ触れた。


温かかった。


「……陽葵……

ありがとう。

僕を……

見つけてくれて。

呼んでくれて。

最後まで……

僕を信じてくれて……

ありがとう……」


陽葵の瞳に、

光がふわりと滲んだ。


『……まくん……』


「そして……

僕も……

君が……

大好きだった……

ずっと……

ずっと……」


陽葵は、

そっと微笑んだ。


その微笑みは、

あの日の夕暮れよりも、

どんな光よりも優しかった。


『……まくん……

もう……

だいじょうぶ……

まくんは……

ひとりじゃない……

これからは……

じぶんのせかいで……

いきていける……』


和真は、

涙をこぼしながら頷いた。


「……うん……

陽葵……

ありがとう……」


陽葵は、

静かに手を離した。


光が、

ゆっくりとほどけていく。


輪郭が薄れ、

髪が風に散り、

声が空気に溶けていく。


『……まくん……

だいすき……

さよなら……』


和真は、

その消えていく光に向かって手を伸ばした。


「……陽葵……!」


光は、

そっと和真の指先に触れた。


最後の“手をつなぐ”ように。


そして──

陽葵の魂は、

静かに、

穏やかに、

夜空へと昇っていった。


星のように瞬きながら。


和真は、

その光が見えなくなるまで、

ずっと見つめ続けた。


胸の奥に残ったのは、

痛みではなく──

確かな温もりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ