スーパーフラット・ラストパス
陽葵は、
かすかに微笑んだ。
『……ま……くん……
だいじょうぶ……?』
その声は、
涙が出るほど懐かしかった。
和真は、
震える声で言った。
「……陽葵……
僕……
君に……
まだ言えてないことが……」
陽葵の光が、
そっと揺れた。
『……うん……
しってる……
でも……
いまは……
まだ……ちがうの……
まくんが……
たちあがるまで……
わたし……
まってる……』
光は、
ふわりと薄くなり、
空気に溶けていった。
和真は、
その消えていく光を見つめながら、
静かに息を吐いた。
(……陽葵……
僕は……
必ず行くよ……
君のところへ……)
毅が、
そっと声をかけた。
「……行くんだろ。
陽葵のところへ」
和真は頷いた。
「……うん。
陽葵が……
僕を呼んでる」
毅は立ち上がり、
肩を押さえながら言った。
「なら……
俺も行く」
和真は、
胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……ありがとう、毅」
毅は、
軽く拳を突き出した。
「行こうぜ。
陽葵の“最後の場所”へ」
和真は、
その拳にそっと触れた。
そして──
夜の街のどこかで揺れる、
陽葵の魂の気配を感じながら、
静かに立ち上がった。
***
病室を出ると、
夜の空気がひんやりと肌を撫でた。
街灯の光が、
アスファルトの上に淡い影を落とす。
毅は肩を押さえながら歩いていたが、
その足取りはしっかりしていた。
「……本当に大丈夫なのか、毅」
和真が言うと、
毅はいつもの調子で笑った。
「言ったろ。
かすり傷だって。
それに……
お前を一人で行かせたら、
陽葵に怒られそうだしな」
その言葉に、
和真は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(……陽葵……
僕は……
行くよ……
君のところへ……)
夜風が吹き抜ける。
その風の中に、
ふっと“気配”が混じった。
和真は立ち止まった。
「……陽葵……?」
毅には見えない。
けれど、和真には分かった。
淡い光が、
街灯の下で揺れていた。
輪郭はまだ完全ではないが、
もう線画ではない。
“人の姿”に限りなく近い。
陽葵の魂だ。
光は、
ゆっくりと前へ進む。
まるで
「ついてきて」
と言うように。
毅が小声で言った。
「……陽葵が案内してるのか?」
和真は頷いた。
「……うん。
“最後の場所”へ……」
二人は、
陽葵の光を追って歩き出した。
陽葵の光は、
まるで風に溶けるように揺れながら、
静かに街の外れへと導いていく。
人通りは少なく、
車の音も遠い。
毅が言った。
「……なんか、
あの光……
前よりずっと綺麗だな」
和真は、
胸の奥が震えるのを感じた。
「……陽葵の歪みが……
消えかけてるんだ。
海斗の執着から……
解放され始めてる……」
毅は頷いた。
「じゃあ……
もうすぐなんだな。
陽葵が……
本当の姿に戻るのが」
和真は、
そっと拳を握った。
「……うん。
でも……
その前に……
僕が……
ちゃんと向き合わなきゃいけない」
陽葵の光が、
ふわりと揺れた。
まるで
「そうだよ」
と答えているように。
光は、
街の外れにある小さな公園へと導いた。
夜の公園は静かで、
ブランコが風に揺れてかすかに軋む音だけが響いている。
和真は、
胸の奥がざわつくのを感じた。
(……ここ……
陽葵と……
最後に話した場所だ……)
陽葵の光は、
公園の中央──
あの日、陽葵が座っていたベンチの前で止まった。
そして、
ゆっくりと形を変え始めた。
輪郭が整い、
光が集まり、
髪の揺れ、
指先の細さ、
瞳の形が浮かび上がる。
毅が息を呑んだ。
「……和真……
これ……」
和真は、
震える声で言った。
「……陽葵……
本当の……
陽葵だ……」
光は、
完全な“少女の姿”へと変わった。
そこに立っていたのは──
歪みのない、
本当の陽葵の魂。
陽葵は、
静かに微笑んだ。
『……まくん……
きてくれて……
ありがとう……』
その声は、
もうかすれていなかった。
和真の胸が、
熱く震えた。
(……陽葵……
僕は……
君に……
言わなきゃいけない……
“あの言葉”を……)
陽葵は、
そっと手を伸ばした。
『……まくん……
きいて……
ほしいの……』
和真は、
涙をこらえながら頷いた。
「……うん……
陽葵……
聞くよ……」
そして──
陽葵の魂は、
“最後の言葉”を伝えるために
ゆっくりと口を開いた。




