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スーパーフラット・リード

河川敷を離れたあと、

和真と毅は、

海斗の“次の居場所”を探すために歩き続けていた。


夕暮れは夜へと変わり、

街灯がぽつりぽつりと灯り始める。


毅が言った。


「海斗が姿を消したのは事件のあとだ。

家にも戻らず、図書館にも来ない。

でも……

完全に消えたわけじゃない」


和真は頷いた。


「……うん。

さっきの影……

あれは“魂”じゃない。

海斗の意識の残滓……

つまり、海斗自身はまだ“生きてる”。

どこかに……

陽葵を縛ったまま……」


毅は、

少しだけ歩調を速めた。


「海斗がよく行ってた場所……

もう一つある。

司書さんが言ってた。

“夜になると、あの人は決まって同じ方向へ帰っていった”って」


和真は顔を上げた。


「……どこ?」


毅は指をさした。


「図書館の裏山だ。

古い展望台がある。

人がほとんど来ない場所だ」


和真の胸がざわついた。


──陽葵が最後に怯えていた日。

──帰り道で何度も振り返っていた姿。

──あの視線の先。


「……陽葵……

あの日……

展望台のほうを見てた……」


毅は頷いた。


「行こう。

そこに……

海斗がいる」



夜の山道は静かだった。

風の音と、

枯れ葉を踏む足音だけが響く。


和真は、

胸の奥が締めつけられるのを感じていた。


「……陽葵……

君は……

ここで……

何を見たの……?」


そのとき──


ふ、と空気が揺れた。


まただ。

和真の視界の端に、

“揺れる影”が現れた。


だが今回は──

陽葵でも海斗でもなかった。


もっと淡く、

もっと弱い光。


毅が気づかずに歩き続ける中、

和真だけが立ち止まった。


「……誰……?」


影は、

かすかに揺れながら言った。


『……ま……くん……』


和真の心臓が跳ねた。


「……陽葵……?」


影は、

首を横に振った。


『……わたし……

まだ……

ちがう……

でも……

ちかづいてる……』


和真は息を呑んだ。


「……陽葵の魂……

歪みが……

薄くなってる……?」


影は、

ふわりと揺れた。


『……かいと……

つよい……

まだ……

わたし……

とらわれてる……

でも……

まくん……

きて……

まってる……』


そして、

影は消えた。


和真は、

胸の奥が熱くなるのを感じた。


毅が振り返る。


「和真、どうした」


和真は、

涙を拭いながら言った。


「……陽葵が……

近くにいる……

歪みが……

少しずつ……

ほどけてる……

僕が……

近づいてるから……」


毅は頷いた。


「なら……

急ごう。

展望台はもうすぐだ」



古びた木造の展望台が、

夜の闇の中に浮かび上がっていた。


誰もいないはずなのに、

空気が重い。


和真は、

胸の奥がざわつくのを感じた。


「……ここだ……

陽葵が……

“そこに”って言ってた……」


毅は、

静かに頷いた。


「和真。

覚悟はいいか」


和真は、

深く息を吸った。


「……うん。

陽葵を……

迎えに行く」


その瞬間──


展望台の奥から、

かすかな足音が聞こえた。


毅が身構える。


「……誰だ」


闇の中から、

ゆっくりと姿が現れた。


細身の青年。

フードを深くかぶり、

顔は見えない。


だが──

その気配は、

和真には分かった。


「……海斗……」


青年は、

ゆっくりと顔を上げた。


その瞳は、

光を失っていた。


けれど──

その奥に、

“何か”が揺れていた。


海斗は、

かすれた声で言った。


「……返してよ……

陽葵さんを……

僕の光を……

返してよ……

カズマ……」


和真は、

胸の奥が締めつけられるのを感じた。


「……海斗……

陽葵は……

君のものじゃない……

陽葵は……

“生きたかった”んだ……

君の光じゃない……

君の所有物じゃない……

陽葵は……

陽葵だ……!」


海斗の瞳が、

びくりと揺れた。


その瞬間──


展望台の奥で、

淡い光が揺れた。


陽葵の魂だ。


歪みのない、

“本当の陽葵”に近い光。


和真は息を呑んだ。


「……陽葵……!」


光は、

かすかに揺れながら言った。


『……ま……くん……きてくれて……

ありがとう……』


和真の胸が、

熱く震えた。


陽葵の魂は、

確かにそこにいた。


そして──

和真が今度こそ、真実を受け容れる為の

最後の試練が、

静かに近づいていた。


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