スーパーフラット・サーチ
陽葵の影が消えたあと、
和真と毅は、
海斗が最後に姿を見せたという“ある場所”へ向かっていた。
図書館でも学校でもない。
海斗が事件の前、
ひとりでよく訪れていたという──
河川敷の遊歩道。
冬の風が川面を渡り、
枯れ草がざわめく。
毅が言った。
「海斗がここに来てたって話、
司書さんから聞いたことがある。
“落ち着く場所”だって」
和真は、
胸の奥がざわつくのを感じた。
「……陽葵が……
“そこに”って……
言ってた……」
二人はゆっくりと歩き出した。
夕暮れの光が薄く差し込む。
河川敷のベンチの上には、
誰かが置いていった紙袋があった。
毅が近づく。
「……これ……海斗のだな」
中には──
本が数冊と、
折りたたまれた紙。
和真は震える手で紙を開いた。
そこには、
海斗の筆跡でこう書かれていた。
《陽葵さんは僕の光だった》
《奪われた》
《返してほしい》
和真の心臓が跳ねた。
毅は低く呟いた。
「……完全に壊れてるな……」
和真は、
胸の奥が締めつけられるのを感じた。
「……陽葵は……
僕が“奪った”んじゃない……
海斗が……
勝手に……
そう思い込んだだけだ……」
毅は頷いた。
「でも……
海斗はその思い込みで動いてる。
だから危険なんだ」
和真は紙を握りしめた。
そのとき──
風が止んだ。
空気が、
ふっと静まり返る。
和真の視界の端に、
また“揺れる影”が現れた。
今度は──
陽葵の影ではなかった。
細身の青年の影。
フードを深くかぶり、
顔は見えない。
毅には見えていない。
和真だけが視える。
和真は息を呑んだ。
「……海斗……?」
影は、
ゆっくりと首を傾けた。
『……かずま……』
声はかすれている。
でも、確かに“海斗の声”だった。
毅が気づかずに言う。
「どうした、和真」
和真は震える声で答えた。
「……海斗が……
ここにいる……
“魂”じゃない……
“意識”が……
残ってる……」
海斗の影が、
ゆっくりと手を伸ばしてきた。
『……ひま……り……
かえせ……』
和真は、
胸の奥が凍りつくのを感じた。
「……陽葵は……
君のものじゃない……
陽葵は……
誰のものでもない……
陽葵は……
陽葵だ……!」
影が、
びくりと震えた。
『違う!!……うばった……
おまえが……
うばった……』
和真は首を振った。
「違う……
僕は……
陽葵を奪ってなんかない……
陽葵は……
僕に“助けを求めた”んだ……!」
影が揺れ、
形が崩れかける。
毅が叫ぶ。
「和真、離れろ!」
だが和真は動かなかった。
「……海斗……
陽葵は……
君の光じゃない……
君の所有物じゃない……
陽葵は……
“生きたかった”んだ……
でも、君のせいで……
陽葵は奪われたんじゃない……
君が……
奪ったんだ……!」
影が、
ぐにゃりと歪んだ。
そして──
消えた。
風が戻り、
川の音が聞こえた。
毅が駆け寄る。
「和真、大丈夫か!」
和真は、
震える息を吐いた。
「……陽葵の魂……
まだ……
海斗に縛られてる……
でも……
さっきの反応……
“揺れた”……
陽葵の言葉が……
届き始めてる……」
毅は頷いた。
「じゃあ……
影の次は“本体”だな。
海斗の居場所……
必ず見つける」
和真は、
空を見上げた。
夕暮れの光が、
どこか優しく見えた。
「……陽葵……
もう少しだけ……
待ってて……
僕が……
君を迎えに行く……
本当の姿の君に……
会いに行く……」
風が、
そっと頬を撫でた。
まるで、
陽葵が返事をしているように。




