スーパーフラット・ワーニング
図書館の裏手にある搬入口は、
夕方の光が届かず薄暗かった。
段ボールを運んでいた青年が、
和真たちに気づいて顔を上げた。
落ち着いた雰囲気の青年──
陽葵が“たった一度だけ相談した相手”。
毅が声をかけた。
「すみません。
海斗さんのことで……話を聞きたいんです」
青年は一瞬だけ目を細めた。
その反応は、
“ああ、来たか”
と言っているようだった。
「……陽葵さんの友達、だよね」
和真は頷いた。
「……はい。
陽葵が……
あなたに“気をつけて”と言われたって……」
青年は静かに息を吐いた。
「……あの日のこと、覚えてるよ。
陽葵さん……
本当に怯えてた」
和真の胸が締めつけられる。
青年は段ボールを置き、
ゆっくりと語り始めた。
「海斗さんは……
普段は穏やかで、知的で、礼儀正しい。
でも……
スイッチが入ると別人になる」
和真は息を呑んだ。
青年は続けた。
「陽葵さんが距離を置き始めた頃……
海斗さんは僕に言ったんだ。
“裏切られた”って」
毅が眉をひそめる。
「裏切られた……?」
青年は頷いた。
「陽葵さんが優しくしてくれたことを、
海斗さんは“特別な関係”だと信じ込んでた。
だから……
陽葵さんが距離を置いた瞬間、
海斗さんの中で何かが壊れた」
和真の背筋に冷たいものが走る。
青年は、さらに低い声で言った。
「そして……
君の名前を出したんだよ」
和真の心臓が跳ねた。
「……僕……?」
青年は頷いた。
「“陽葵さんを奪った”って。
“あいつさえいなければ”って。
その時の海斗さんの目……
あれは……
普通じゃなかった」
和真は震える声で言った。
「……陽葵は……
僕を……
巻き込みたくなかったんだ……」
青年は静かに頷いた。
「陽葵さんは優しい子だった。
自分が怯えていることも、
誰かに迷惑をかけるのも嫌がってた。
でも……
最後の最後で……
君に助けを求めた」
和真の胸が痛む。
『ま……くん……たす……け……』
あのメッセージが、
胸の奥で再び響く。
青年は、
和真の表情を見て静かに言った。
「……海斗さんは、
陽葵さんを“自分のもの”だと思い込んでた。
そして……
君を“奪った相手”だと認識していた」
毅が低く呟いた。
「……つまり……
海斗は陽葵だけじゃなく、
和真にも執着してたってことか」
青年は頷いた。
「君は……
海斗さんにとって“壊すべき存在”だった」
和真は、
胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「……僕……
陽葵を守れなかった……
でも……
もう逃げない……
海斗と向き合う……
陽葵のために……」
青年は静かに言った。
「……海斗さんの家、行くんだろ。
気をつけて。
あの人……
普通じゃないから」
和真は深く頷いた。
「……行きます。
陽葵が……
何に怯えていたのか……
全部知りたい」
毅が肩を叩いた。
「行こう。
海斗の家へ」
和真は、
夕暮れの空を見上げた。
逃避世界はもうない。
陽葵の線画も消えた。
残っているのは──
陽葵が最後に見た“青年の影”の正体。
そしてその影は、
確かに和真の記憶の中にいた。




