スーパーフラット・リンク
図書館を出たあと、
和真と毅はそのまま駅前の通りを歩いていた。
夕方の光が街を薄く染め、
人の声が遠くに霞んで聞こえる。
和真は、胸の奥に残るざわつきを抑えられなかった。
「……海斗のこと、
僕……本当に何も知らなかったんだな」
毅は横で歩きながら言った。
「普通は分からないさ。
あいつ、表の顔は完璧だった。
穏やかで、知的で……
誰にでも丁寧だった」
和真は唇を噛んだ。
「……陽葵も……
最初は普通に話してた。
でも……
ある日から急に距離を置き始めた」
毅が頷く。
「その“ある日”が重要だな。
陽葵が何を見たのか……
何を感じたのか……
そこに答えがある」
和真は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「……海斗が……
僕に言った言葉……
思い出したんだ」
毅が横目で見る。
「なんて言われた」
和真は、震える声で呟いた。
「“奪わないでよ”って……
陽葵が帰ったあと……
海斗が僕に……
笑いながら……
でも……
声のトーンが……違ってた」
毅の表情が強張る。
「……完全に執着してたんだな。
陽葵に」
和真は頷いた。
「そして……
僕のことを……
“奪った相手”だと思ってた……」
胸が締めつけられる。
そのとき、毅が足を止めた。
「和真。
海斗の家……
行く前に、
もう一人だけ話を聞いておきたい」
和真は顔を上げた。
「……誰?」
毅は静かに言った。
「陽葵が最後に相談してた“司書さん”じゃなくて……
もう一人。
陽葵が“海斗のことで一度だけ話した相手”がいる」
和真は息を呑んだ。
「……そんな人が……?」
毅は頷いた。
「陽葵が“視線が怖い”って言い始めた頃、
一度だけ……
“ある青年に声をかけられた”って話してたらしい」
和真の背筋に冷たいものが走る。
「……海斗……?」
毅は首を振った。
「違う。
海斗じゃない。
でも……
その青年は“海斗と親しかった”」
和真の心臓が跳ねた。
「……海斗の……知り合い……?」
毅は静かに言った。
「陽葵は……
その青年に“気をつけて”と言われたらしい。
“あの人、時々おかしくなるから”って」
和真の呼吸が止まった。
胸の奥が、
鋭く痛む。
「……海斗の……
裏の顔を知ってた人が……
いた……?」
毅は頷いた。
「そいつに会えば……
海斗の“本当の姿”が分かるかもしれない」
和真は、震える声で言った。
「……会いたい……
その人に……
陽葵が……
何を感じて……
何を恐れて……
どうして僕に……
あのメッセージを残したのか……
全部知りたい……」
毅は静かに頷いた。
「行こう。
そいつは……
今も図書館の裏で働いてる」
和真は深く息を吸った。
逃避世界はもうない。
陽葵の線画も消えた。
残っているのは──
陽葵が最後に頼った“警告”の痕跡。
そしてその痕跡は、
海斗の“裏の顔”へと繋がっていた。




