スーパーフラット・リターン
陽葵の未送信メッセージを見た翌日。
和真は毅とともに、“あの日の場所”へ向かっていた。
胸の奥がざわつく。
逃避世界では感じなかった“現実の痛み”が、
歩くたびにじわじわと迫ってくる。
毅が言った。
「和真。
ここから先は……本当にきついぞ」
「……分かってる。
でも……行くよ」
毅は頷いた。
二人が辿り着いたのは、
住宅街の外れにある細い路地だった。
昼間なのに薄暗く、
風が吹くたびに電線が揺れる音が響く。
和真は足を止めた。
「……ここ……」
毅は静かに言った。
「陽葵が“視線を感じた”って言ってた場所だ。
亡くなる前、何度もここを通ってた」
その瞬間──
フラッシュバックが走る。
──図書館で、陽葵が不安そうに笑った。
──「最近、誰かに見られてる気がするんだ」
──帰り道、何度も後ろを振り返る姿。
──震える手。
和真は胸を押さえた。
「……陽葵……
こんなに……怖かったんだ……」
毅は言った。
「陽葵は……
お前に心配かけたくなかったんだよ。
優しい子だったからな」
和真は唇を噛んだ。
「……僕……
もっと……気づいてあげれば……」
毅は首を振った。
「違う。
陽葵は“頼ろうとしてた”。
最後のメッセージが証拠だろ」
和真は息を呑む。
『ま……くん……たす……け……』
胸が締めつけられる。
毅は続けた。
「和真。
陽葵は亡くなる前から、
“特定の人物”につけられてた。
警察も把握してた。
でも……
動くのが遅かった」
和真は震える声で言った。
「……ストーカー……
陽葵を……」
毅は静かに頷いた。
「相手は……普通じゃなかった。
陽葵はずっと怯えてた。
でも……
誰にも迷惑かけたくなくて……
一人で抱え込んでた」
和真は目を閉じた。
陽葵の笑顔が浮かぶ。
図書館で本を抱えて笑っていた姿。
悩みを打ち明けてくれた時の、
少し不安そうな瞳。
そして──
淡い恋心。
「……僕……
陽葵のこと……
好きだったんだ……」
毅は驚かなかった。
「知ってたよ。
陽葵も……
お前のこと、嫌いじゃなかったと思う」
和真は涙をこぼした。
「……守りたかった……
陽葵のこと……
守りたかったんだ……」
毅は、和真の肩に手を置いた。
「和真。
陽葵が巻き込まれた事件は……
お前の力じゃどうにもできなかった。
でも……
“陽葵が最後に頼ったのはお前”だ。
それだけは……
事実だ」
和真は震える息を吐いた。
「……僕……
真相を知りたい。
全部……向き合いたい」
毅は頷いた。
「なら……
次は警察だ。
陽葵の事件記録を見よう。
あの日、何があったのか……
ちゃんと知るんだ」
和真は、静かに頷いた。
「……行こう。
僕は……逃げない」
毅は微笑んだ。
「よし。
ここからが本番だ」
二人は、
真相へ向かう道を歩き出した。
逃避世界はもうない。
陽葵の線画も消えた。
残っているのは──
現実の痛みと、真実だけ。
それでも。
和真は、確かに前へ進んでいた。




