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スーパーフラット・サイン

陽葵の未送信メッセージを見た夜、

和真はほとんど眠れなかった。


目を閉じると、

陽葵の声が聞こえる気がした。


『……まーくん……』


優しい声。

あの日と同じ声。


でも──

もうそれは現実の陽葵ではない。


和真は、胸の奥が締めつけられるのを感じながら、

布団の中で小さく息を吐いた。




翌日、毅が迎えに来た。


「顔色悪いな……寝てないだろ」


「……まぁね」


毅はため息をついた。


「無理もないけどな。

でも……今日は話しておきたいことがある」


和真は顔を上げた。


「……陽葵のこと?」


毅は頷いた。


「そうだ。

お前が知らなかったこと……

陽葵が俺にだけ相談してたことがある」


和真の心臓が跳ねた。


「……相談?」


毅はゆっくりと歩き出し、

和真もその隣に並んだ。


「陽葵……亡くなる前から、

誰かにつけられてたんだ」


和真は足を止めた。


「……え……?」


毅は苦しそうに続けた。


「学校の帰り道とか、

図書館からの帰りとか……

“視線を感じる”って言ってた。

最初は気のせいだと思ってたらしいけど……

だんだん、はっきりしてきたって」


和真の喉が乾く。


図書館──

陽葵と初めて話した場所。


悩みを聞いた場所。

連絡先を交換した場所。

陽葵が笑ってくれた場所。


「……なんで……

僕には言わなかったんだろ……」


毅は静かに言った。


「言おうとしてたんだよ。

陽葵……お前のこと、すごく信頼してた。

“和真くんなら話せる気がする”って……

でも……

タイミングがなかったんだ」


和真は胸を押さえた。


「……僕……

もっと……

陽葵のこと……

見てあげればよかった……」


毅は首を振った。


「違う。

陽葵は……

お前に心配かけたくなかったんだよ。

優しい子だったからな」


和真は、目を閉じた。


陽葵の笑顔が浮かぶ。

図書館で本を抱えて笑っていた姿。

悩みを打ち明けてくれた時の、

少し不安そうな瞳。


そして──

淡い恋心。


「……僕……

陽葵のこと……

好きだったんだ……」


毅は、驚かなかった。


「知ってたよ。

見てれば分かる。

陽葵も……

お前のこと、嫌いじゃなかったと思う」


和真は、涙をこぼした。


「……守りたかった……

陽葵のこと……

守りたかったんだ……」


毅は、和真の肩に手を置いた。


「和真。

陽葵が巻き込まれた事件は……

お前の力じゃどうにもできなかった。

あれは……

相手が悪すぎたんだ」


和真は震える声で言った。


「……ストーカー……

陽葵を……」


毅は言葉を選びながら、

静かに頷いた。


「……あいつは……

普通の人間じゃなかった。

陽葵は……

ずっと怯えてた。

でも……

誰にも迷惑かけたくなくて……

一人で抱え込んでた」


和真は、拳を握りしめた。


「……陽葵……

どうして……

僕に……」


毅は優しく言った。


「言おうとしてたんだよ。

最後のメッセージ……

あれが証拠だろ」


和真は息を呑んだ。


『ま……くん……たす……け……』


陽葵は、

最後の最後に──

自分を呼んでいた。


胸の奥が、

痛みで裂けそうになる。


毅は言った。


「和真。

陽葵が残した“最後の声”に向き合うには……

まだ時間が必要だ。

でも……

一緒に向き合おう。

逃げずに」


和真は、涙を拭いながら頷いた。


「……うん……

逃げないよ……

もう……絶対に」


毅は微笑んだ。


「よし。

じゃあ……

次は“あの日の場所”に行こう」


和真は息を呑んだ。


あの日の場所──

陽葵が最後にいた場所。


逃げ続けてきた現実。


でも、

もう逃げない。


和真は、

静かに頷いた。


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