スーパーフラット・フラグメント
『ま……くん……たす……け……』
陽葵の未送信メッセージを見た瞬間、
和真の世界は再び揺れた。
胸の奥が、
鋭い痛みに締めつけられる。
「……陽葵……」
声が震える。
指先が冷たくなる。
あの日の記憶が、
断片的に蘇り始めた。
──スマホのバイブ音。
──机の上で光る画面。
──気づかないまま続けていた日常。
──そして、気づいた時にはもう遅かった。
和真は頭を抱えた。
「……僕が……
気づいてれば……」
そのとき──
耳の奥で、かすかな声がした。
『……まーくん……
だいじょうぶ……』
逃避世界の残響。
もう陽葵ではない。
でも、優しい声。
和真は、震える声で呟いた。
「……陽葵……
もう……いいんだ……
僕は……現実に戻るって……
決めたんだ……」
声は、ふっと消えた。
静寂が戻る。
和真は深く息を吐き、
スマホをそっと机に置いた。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
和真は驚きながら扉を開ける。
そこには、毅が立っていた。
「……大丈夫かと思ってさ。
顔、見に来た」
和真は小さく笑った。
「……ありがとう。
ちょっと……揺れたけど……
大丈夫」
毅は部屋に入り、
和真の表情をじっと見つめた。
「……未送信メッセージ、見たんだな」
和真は頷いた。
「……あれ……
陽葵が最後に……
僕に送ろうとしてた……」
毅は、ゆっくりと息を吐いた。
「和真……
俺もな……
あの日のこと、
ずっと後悔してるんだ」
和真は顔を上げた。
「……毅が?」
毅は頷いた。
「陽葵から……
“和真に連絡がつかない”って
相談されてたんだよ。
でも……
俺も……
どうしていいか分からなくて……
“あとで話せばいいだろ”って……
軽く言っちまった」
和真は息を呑んだ。
毅は続けた。
「だから……
お前だけが悪いわけじゃない。
俺も……
陽葵を助けられなかった一人だ」
和真の胸が締めつけられる。
「……毅……」
毅は、和真の肩に手を置いた。
「だから……
一緒に向き合おう。
陽葵のことも……
あの日のことも……
全部」
和真は、ゆっくりと頷いた。
「……うん……
逃げないよ。
もう……逃げない」
毅は微笑んだ。
「よし。
じゃあ……
まずは少しずつだ。
今日は……
陽葵のメッセージを見ただけで十分だよ」
和真は深く息を吸った。
胸の奥の痛みはまだ消えない。
でも──
その痛みを抱えたまま、
前へ進む覚悟が生まれていた。
そして、
和真の心の奥で、
逃避世界の残響が静かに消えていく。




