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スーパーフラット・リカレンス

家に戻る道のりは、

ほんの数分のはずなのに、

和真には果てしなく長く感じられた。


足が重い。

空気が重い。

胸の奥が、ずっと痛い。


逃避世界では感じなかった“重さ”が、

現実には満ちていた。


毅は、和真の歩幅に合わせてゆっくり歩いていた。

何も言わない。

ただ、隣にいる。


その沈黙が、和真にはありがたかった。


家の前に着くと、

和真は玄関の前で立ち止まった。


「……帰ってきた、のか……」


自分の家なのに、

どこか“知らない場所”のように感じる。


毅が言った。


「無理に入らなくていい。

少しずつでいいんだ」


和真は小さく頷き、

玄関の扉に手をかけた。


ギィ……と音を立てて扉が開く。


中は、

逃避世界に入る前と何も変わっていなかった。


散らかった机。

つけっぱなしのモニター。

読みかけの本。

陽葵からの未読メッセージが残るスマホ。


すべてが、

和真の“止まっていた時間”を物語っていた。


和真は、そっとスマホを手に取った。


画面には──


陽葵からの着信履歴が、

何件も何件も並んでいた。


胸が締めつけられる。


「……陽葵……」


その瞬間──


耳の奥で、また声がした。


『……ま……くん……

ごめんね……』


和真は目を閉じた。


「……違う……

陽葵は……そんなこと言ってない……

これは……僕の心が作ってるだけだ……」


毅が静かに言う。


「そうだ。

でもな……

その声は、お前が“陽葵に言ってほしかった言葉”なんだよ」


和真は息を呑んだ。


「……僕が……?」


毅は頷いた。


「お前はずっと、

“陽葵は自分を責めてない”って言ってほしかったんだ。

だから……

心が勝手に作ったんだよ。

優しい陽葵を。

笑ってくれる陽葵を。

許してくれる陽葵を」


和真の手が震えた。


「……僕……

そんなに……弱かったのかな……」


毅は首を振った。


「弱いんじゃない。

大切だったんだよ。

陽葵が。

だから……

壊れたんだ」


和真は、涙をこぼした。


その涙は、

逃避世界では決して流れなかった“現実の涙”だった。


毅は続けた。


「和真……

陽葵の事件のこと、

ちゃんと向き合わないといけない時が来る。

でも……

今日はもういい。

まずは……

飯食って、寝ろ」


和真は、少しだけ笑った。


「……うん……

ありがとう、毅……」


毅は立ち上がり、玄関へ向かった。


「明日また来る。

一人で抱え込むなよ」


和真は頷いた。


毅が帰ったあと、

部屋には静寂が戻った。


和真はベッドに座り、

深く息を吐いた。


そのとき──


スマホが震えた。


和真は息を呑む。


画面には、

見覚えのある名前が表示されていた。


陽葵


和真の心臓が跳ねた。


「……そんな……

はず……ない……」


震える指で画面を開く。


そこには──


“未送信メッセージ”

という文字があった。


陽葵が、

最後に打ちかけていたメッセージ。


和真は、

ゆっくりとその内容を読んだ。


『ま……くん……たす……け……』


和真の世界が、

再び揺れた。


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