スーパーフラット・リマインダー
風が止んだ。
紙の世界がすべて剥がれ落ちたあと、
墓地には、
本物の空と、本物の風と、本物の静寂
だけが残っていた。
和真は、地面に手をついたまま動けなかった。
「……僕……」
声が震える。
喉が痛い。
胸が焼けるように苦しい。
毅は、和真の隣にしゃがみ込んだ。
その表情は、怒りでも説教でもなく、
ただただ、親友を心配する顔だった。
「和真……聞けるか」
和真は、ゆっくりと顔を上げる。
毅は、墓石を見つめながら言った。
「お前……あの日のこと、
ちゃんと話したことなかったよな」
和真の心臓が跳ねた。
逃げたい。
耳を塞ぎたい。
でも──
逃げても、陽葵は戻らない。
毅は続けた。
「陽葵からの着信……
お前、気づくのが遅れたんだよな」
和真の呼吸が止まる。
胸の奥が、鋭い針で刺されたように痛む。
「……うん……」
やっとの思いで、声を絞り出す。
「僕……ゲームしてて……
スマホ、机の上に置きっぱなしで……
気づいた時には……
着信、何件も……」
毅は目を閉じた。
「駆けつけた時には……
もう、警察が来てたんだよな」
和真は唇を噛んだ。
「陽葵……
僕に電話してたのに……
助けを求めてたのに……
僕……気づかなかった……
間に合わなかった……」
声が震え、涙が落ちる。
毅は、静かに言った。
「和真……
あれは、お前のせいじゃない」
「違う!!」
和真は叫んだ。
「僕が……気づいてれば……
僕が……すぐに電話に出てれば……
陽葵は……!」
毅は、強く首を振った。
「違う。
あの日のことは……
誰のせいでもない。
陽葵が……悪い人間に巻き込まれたんだ。
お前が気づいてても……
どうにもならなかった可能性の方が高い」
和真は、涙で視界が滲む。
「でも……僕は……
陽葵を守れなかった……」
毅は、和真の肩を掴んだ。
「守れなかったんじゃない。
“守れなかった自分を許せない”だけだ」
和真は息を呑んだ。
その言葉は、
逃避世界のどんな攻撃よりも鋭く、
どんな魔法よりも重かった。
毅は続けた。
「だから……
お前は“陽葵の最期だけは笑顔で終わる世界”を
作ったんだろ」
和真は震える声で呟く。
「……オッサンも……?」
毅は頷いた。
「そうだ。
あれは……お前の心が作った“逃げ場所”だ。
罪悪感から逃げるための……
もう一人の自分だよ」
和真は、胸を押さえた。
オッサンの笑い声。
オッサンの泣き声。
オッサンの意味深な言葉。
全部──
自分の心の声だった。
「……僕……」
言葉が出ない。
毅は、優しく言った。
「和真。
陽葵は……もういない。
でも……
“陽葵を失ったお前”は、まだここにいる。
だから……
戻ってこい。
現実に」
和真は、ゆっくりと目を閉じた。
逃避の世界はもうない。
陽葵の線画も消えた。
残っているのは──
陽葵の墓と、現実の痛みだけ。
それでも。
和真は、小さく息を吸った。
「……僕……
戻るよ……毅……」
毅は、ほっとしたように微笑んだ。
「よし。
じゃあ……
ここからだな」
和真は頷いた。
そして──
真相の扉が、静かに開いた。




