第廿話 ペーパーフラっとRPG
前回のあらすじ:
【和真とオッサンは魔法使いの試練を乗り越え、王の謁見の間にたどり着く。しかし、囚われているはずの姫はそこに普通におり、彼女の隣には気品ある貴族の青年が立っていた。驚く和真に、姫は自分がさらわれたのではなく、政略結婚でこの城へ来ただけだと告げる。完全な勘違いに絶望する和真と、責任逃れしようとするオッサン。混乱の中、姫は和真に対決を申し込む。貴族の青年とのゲーム勝負に勝てば姫が和真の願いを聞き、負ければ貴族の願いを聞くという条件。競技は「太鼓」と「ラジオ体操」という謎のルールで行われることになり、騒然とする場の空気の中、勝負の幕が上がる――。】
姫の宣言が玉座の間に響き渡ると、重厚な音とともに巨大な和太鼓が運び込まれた。
漆黒の太鼓皮が厳かに輝き、装飾された木枠が高貴な雰囲気を醸し出している。
周囲の貴族や侍従たちは息をのんで見守り、試合の緊張感が一層高まっていった。
和真の視界の端で、太鼓の影が一瞬だけ“紙のように薄く”揺れた。
瞬きをすると、影は普通に戻っていた。
「……本当にこれで決めるの?」
和真は目の前の太鼓を見つめながら、バチを握りしめる。
眉間には深い皺が刻まれ、決断の重みがのしかかっていた。
対する貴族の青年は、既に余裕の笑みを浮かべ、まるで勝利を確信しているかのようだった。
「君が勝てば、願いをひとつ叶えてもらえるんだ。
やるしかないだろう?」
青年は挑発するように言い放つ。
その言葉に、和真はぐっと歯を食いしばる。
望みを叶えるには、この試合に勝つしかない。
しかし、青年の姿勢と表情からは圧倒的な自信が感じられた。
彼はただ者ではない――そう思った瞬間、和真の心に不安が広がる。
「くっ……」
ため息をつきながらも、和真は覚悟を決めてバチを握り直す。
そして――
「試合開始!!」
姫の号令と同時に、貴族の青年が美しいフォームでバチを振るった。
まるで舞うように軽やかで、洗練された動き。
静寂を切り裂くように響く太鼓の音――
「ドン!カッ!ドドン!カカッ!」
そのリズムは芸術品のようだった。
均整の取れた音の流れが空間を支配する。
観客たちは息を呑み、彼の卓越した技術に魅了されていく。
和真は圧倒されるように呆然とした。
「うまっ……!!」
戦う前から、すでに敗北が決まったような気すらした。
しかし――
「俺だって……!!」
和真は歯を食いしばり、自分を奮い立たせるように叫びながらバチを振るう。
「ドン!カッ!カカッ!」
青年とほぼ同じテンポを刻みながら、必死に食らいつく。
額には汗が滲み、全身の筋肉を駆使して叩き続ける。
しかし、青年は涼しい顔のまま、美しく太鼓を叩き続けていた。
そして、リズムが加速する。
「ドドドドカカカカカカッ!」
雷のような連打が場を圧倒し、観客の心を揺さぶる。
凄まじい速度――。
「速ぇぇぇぇ!!!?」
驚愕と動揺の中でも、和真は必死に喰らいつく。
しかし――その指が、ほんの一瞬ズレた。
「やばっ……!!!」
「ピピピ……」
ボム師範の目がギラリと光る。
和真の全身に冷たい汗が流れた。
「しまった……!!」
「ミス検知完了――爆破準備、発動!」
「なっ……!」
和真の敗北が決定的になる。
青年は冷静に最後の一打を決め、試合終了の宣言が響いた。
「勝者、貴族の青年!」
「ぐっ……負けた……」
肩を落とす和真。
しかし――
ボム師範の視線が、なぜか試合とは無関係なオッサンへ向けられる。
「え?なんで俺?」
試合をただ見ていただけのオッサンは、意味が分からず固まる。
「ミス検知完了――爆破準備、発動!」
「ちょ、待て!?俺関係ねぇだろ!!!」
オッサンの抗議も虚しく――
「どかぁぁぁぁん!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!?!?!?
なぜぇぇぇぇぇ!!!」
オッサンは派手に吹っ飛び、壁に突き刺さる。
場内は騒然とし、和真は呆然としながら爆発の余波で服が乱れたオッサンを見つめる。
「……オッサン、試合に関係なかったんですけどね、あははは」
「知らねぇよぉぉぉ!!!」
壁にめり込んだオッサンの影が、一瞬だけ“和真の影と同じ形”に変わった。
和真が瞬きをすると、ただのオッサンの影に戻っていた。
こうして、和真が敗北し、
しかし何故かオッサンが爆破されるという謎の展開で幕を閉じた。




