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第壱話:現実逃避と親友の手

挿絵(By みてみん)

和真は幼い頃から、他の人には見えない不思議なものが見える能力を持っていました。

それは怪異と呼ばれる、人や生物の感情や思念が具現化した存在でした。


和真には妹もいましたが、彼女は和真とは違って怪異を見ることができませんでした。

和真は妹に怪異のことを話しても、信じてもらえませんでした。

両親も和真の話を重度の虚言癖と誤解し、医学部志望の彼を病院に連れて行こうとしました。

和真は自分の能力を隠そうとしましたが、それでも両親から疎まれることになりました。


結局、彼は実家の祖父母の家に一人預けられてしまいました。


和真は学校でも孤立していました。

和真は自分の能力を隠そうとしても、

いつも怪異に邪魔されたり、周りの人から変な目で見られたりしました。


和真は自分の生まれ持った特異体質や自身の心の弱さを嫌っていました。

彼は誰かに理解されたいと願っていましたが、その願いは叶わないと諦めていました。

しかし、そんな和真にも唯一親友と呼べる友達がいました。

剣道部のキャプテン毅でした。


毅は剣道の腕前だけでなく、

人柄も良くて、クラスメートから慕われていました。

毅は和真を仲間として認めてくれて、

いつも優しく励ましてくれました。


毅は和真に剣道を習ってみないかと誘ってくれたので、和真は剣道部に入りました。

剣道部では他の部員からも受け入れられて、

和真は少しずつ自信を取り戻していきました。


「おい、和真。今日も練習頑張ろうぜ」

「うん。ありがとう、毅」

二人は笑顔で握手をしました。



そんなある日、

和真は帰り道に近所の空き地に寄りました。


そこには不法投棄されたゴミの山がありました。

そのゴミの山は怪異発生の温床になっていて、和真にはその中から悲鳴や呻き声が聞こえていました。

和真は怖かったですが、誰かが助けを求めていると思って、

勇気を出してゴミの山に近づきました。

すると、空き缶の淵で怪我をして、

もがき苦しみ動けないでいた青虫を見つけました。


青虫は和真に助けを求める目で見つめているような気がしました。


「大丈夫か?」

和真は青虫に声をかけました。

すると、青虫が小さく頷いているように見えました。

「じゃあ、待っててね」

和真は青虫を傷つけないように手袋をして、

そっと持ち上げました。

そして、空き缶から出血している部分をティッシュで拭きました。


「痛かっただろうね。ごめんね」

和真は青虫に謝りました。

青虫は感謝の意を示すよう微笑んでいるように見えました。

「どこに連れて行こうかな」

和真は青虫を安全な場所に移動させようと考えました。


すると、近くに花壇がありました。

そこには色とりどりの花が咲いていました。

「あそこなら大丈夫だよ」

和真は青虫を花壇にそっと置きました。

青虫は花々の香りに癒されている様子でした。

「元気になってね」

和真は青虫に別れを告げました。

和真の瞳には、青虫が感謝と別れ惜しさを込めて微笑んでいるように映りました。

「また会おうね」

和真は青虫に手を振りました。

和真は青虫との出会いに心が温かくなりました。


その瞬間──視界が一瞬だけ“カクッ”と揺れました。

まるで映像が乱れたような、説明のつかない違和感でした。



そして、ゴミの山を見て、これ以上怪異が発生しないように、毎日、たった一人でコツコツと大量に捨てられていたゴミを片付けることにしました。

和真は毎日のように空き地に通っては、ゴミを拾っていました。

そのおかげか、空き地はだんだんときれいになっていきました。


和真は青虫とも仲良くなって、時々話しかけたり、花や葉っぱをあげたりしました。

青虫は和真に感謝しているのかもしれませんし、和真のことを大切に思っているのかもしれません。

青虫は和真に自分の秘密を明かしたいと思っていたのかもしれません。

しかし、和真には青虫の言葉がわからなかったので、伝えることができませんでした。


その翌日からでした。和真の身の周りで次々と不思議な事が起こるようになったのです。



ある日の休み時間、和真は学校の渡り廊下でいじめっ子のクラスメートに謂れのない因縁をつけられていました。

「おい、何とか言えよ!」

和真はそのクラスメートから胸ぐらを掴まれていました。

殴られると思った和真は反射的に目を瞑りましたが、次の瞬間、彼の喉元の圧迫が解けました。



それから一分余り時間が経ちましたが、

物音一つしませんでした。

和真がゆっくり目を開けてみると、

そのクラスメートはもう目の前にはいませんでした。

和真は驚いて辺りを見回してみました。


すると、渡り廊下の隅の方に先日見つけた怪我をした青虫がいました。

和真は思わず青虫の方に駆け寄りますが、

青虫はいつの間にか和真の視界から消えていました。


青虫が消えた瞬間、視界がまた“カクッ”と揺れました。

ほんの一瞬の乱れでしたが、胸の奥にざらつく違和感が残りました。


「え?」

和真は青虫が突然消えた事に驚きを隠せませんでした。


その後も、青虫は何度も和真の前に現れたり消えたりしました。

和真は不思議に思いましたが、青虫とは話すことができないので、理由はわかりませんでした。


ある日、和真のクラスに一人の女子生徒が転校してきました。

その女性生徒は和真に興味があるらしく、

クラスメート達がいる教室で、和真を放課後屋上に来るように誘いました。


その瞬間、教室の空気が一瞬だけ“静止”したように感じました。

誰も結衣の言葉に反応していないことに、和真は小さな違和感を覚えました。


「結衣ちゃん……だっけ?

教室でそんなこと言うとまずいよ。

きっと僕のクラスメートの奴らが冷やかしに来るって……」

「その事ですか?

心配いりません」


結衣の声はどこか聞き覚えがあるようで、

しかし思い出そうとすると頭の奥がじんと痛みました。


「そ、そう」


ほんとかなぁ……

和真は半信半疑でしたが、

とりあえず結衣と約束したとおり

放課後屋上に向かいました。


「和真くん、お待ちしてました」

「ねえ、教室からここへ来るまで君以外の誰にも会わなかったんだけど、

君、何か知ってる?」


「え、えーと、話せば長くなるんですが、

今から話す事を聞いたら、

きっと理由もわかってもらえますよ」

結衣は和真に語りました。


夕陽に照らされた結衣の影が、なぜか地面に落ちていませんでした。

和真は瞬きをして見直しましたが、その時には影は普通に見えました。


結衣は一生に一回だけ使える魔法で夢が叶えられるらしく、

人間の女性の姿になることを選んだのでした。

結衣は和真に自分の正体を明かしました。


結衣はワームホールと呼ばれる時空のショートカットを利用して、

別の宇宙から過去や未来を移動しながらやってきた存在だったのです。


「和真くん?

あなたは毎日ゴミを拾ってくれて、私の家族や仲間たちを助けてくれましたね?

私はそんな和真くんの直向きなところを少しずつ好きになっていきました。

私は和真くんが好きです」

結衣は和真に告白をしました。


その言葉を聞いた瞬間、和真の視界が一瞬だけ“ノイズ”のように揺れました。


結衣は和真を自分の時代や場所に連れて行こうと提案しました。


しかし、和真はそれを断りました。

和真は毅や他の人々と別れたくなかったからです。


しかし、結衣はあきらめませんでした。

結衣は和真を甘やかしました。

和真自身も自分の弱さに負け、

不都合な現実から自分の殻に閉じこもり、

現実逃避をするようになりました。

和真は結衣から好きな時に好きなだけ美味しい料理をご馳走様されました。


また、二人でたくさん景色の綺麗な場所にデートに行きました。

それは、和真にとって夢のような世界でした。

しかし、それらはすべて結衣がワームホールで持ってきたものでした。


どの景色も“どこかで見たことがある”ような既視感がありましたが、

和真はその理由を思い出せません。


結衣は理解していました。

和真のいる世界に居座ることで、

移動をするたびに時空の歪みを引き起こし、

和真や周囲の人々が気付かない内に危険な目に遭うという事をです。


そして、時空の歪みは和真自身にも影響しました。

和真は記憶が曖昧になり、体が少しずつ薄くなっていきました。

和真はその不安を結衣に打ちあけました。


「和真くん。あなたが私と一緒に違う世界に行ってくれたら、あなた自身はもちろん、

周りの人達の日常も元に戻ります。

だから、私と一緒に来てください」


結衣の瞳の奥が、一瞬だけ“画面のノイズ”のように揺らめきました。

和真はそれを見て、胸がひやりと冷えました。



その頃、毅は漠然とではありましたが、

和真と身の回りの重大な異変に気付いていました。

毅は和真の様子がおかしく、

最近付き合いが悪くなってしまったこと、

最近結衣について不可解な目撃証言があることに、

彼女が怪しいのではないかと疑問に感じていました。



毅はある日、学校で結衣に会いました。

毅は結衣に言いました。


「なあ、お前……誰だ?」


「え?」


「お前、どうして和真と仲良くしてるんだ!?」

毅は結衣に詰め寄りました。


「あなたが私達の何を知ってるって言うの?」

結衣は言いました。


毅の目には、結衣の姿が一瞬だけ“二重にぶれて”見えました。

しかし毅は目をこすり、その違和感を振り払いました。


次の瞬間、

結衣が異空間から呼び出した無数の鋭利な氷の氷柱が一斉に毅目掛け襲い掛かりました。

カキン、カキン、カキーン!

しかし、

剣道を習っていた毅は、

結衣の怒涛の攻撃の全てに対して、

氷柱の一つ一つを木刀で二つに割り、

退けました。

そして、毅は結衣に木刀を突きつけました。

「お前と和真は生きる世界が違うんだ。

お願いだ。

和真の元から去ってくれ」


「黙れー!!」

激昂した結衣は毅の手から木刀を弾くと、

下半身を巨大な青虫に変身した身体に取り憑いて締め上げました。

「どう?

降参して私と和真くんから手を引いてもらえるかしら?」

結衣はそう毅に諭しますが、

毅は決して諦めませんでした。

「お願いだ!

俺はどうなってもいい!

だから、俺の大切な友達を返してくれ!」

毅は結衣に全身痛めつけられていましたが、

何度も何度も頼みました。


二人の問答はその日の夜中まで続きました。

何時間も痛めつけられているにも関わらず、

決して引き下がろうとしない毅の気迫に、

とうとう結衣は観念しました。



次の日、結衣は学校に来ませんでした。

結衣がいないことを心配した和真は、

先生に家族の連絡先を聞きますが、

そんな女子生徒はいないと言われてしまいました。


その瞬間、和真の頭の奥で“何かが書き換わるような”痛みが走りました。


クラスメートにも聞きますが、誰も結衣の事を知りません。

驚き、焦った和真は、思い当たる場所を片っ端から探し回りました。

しかし、どこを探しても結衣はみつかりませんでした。


和真は二人が最初に出会った場所に戻ってみることにしました。

和真は、ここにいないと、もう他には望みはありませんでした。

和真は唯一の希望にかけました。


しかし、結衣はもうそこにはいませんでした。

花壇には、1匹の綺麗な蝶が鱗粉を撒きながら飛んでいました。


蝶の羽が光の粒子のように“ノイズを走らせながら”揺らめきました。

和真はそれを美しいと感じましたが、どこか胸がざわつきました。


素敵な思い出をありがとう、結衣……。

和真は涙を流しながら、蝶に手を振りました。

蝶は和真に手を振り返しているように見えました。

そして、蝶は空へと舞い上がっていきました。


和真は結衣との別れを悲しみましたが、

同時に彼女の幸せを祈りました。

彼女はきっと幸せになれる。

和真はそう確信していました。


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