また貴女と――――
僕は彼女に化粧をしながら話しかける。
「高校時代覚えてる? あれは本当にごめんね。僕が不甲斐ないせいで、名前が『女すぎる』って言う理由で虐められていたよね……ごめんね。もっと強かったら良かった。だけど、弱かったからこそ君と逢えたんだよ」
そう言って微笑む僕の手は、震えながらも彼女の頬に化粧を乗せていく。
「いやぁ、君が強すぎて腰抜けちゃったよ。あの時は。だっていじめっ子をライダーキックで吹っ飛ばして登場してたからね。驚いたよ」
そう言いながら、彼女の瞼に色を載せる。
「あの時、なんで助けてくれたのか分からないや。僕の為なのか、自分の信念なのか……僕には分からない。だから教えて欲しいけど、君は頑なに言わないよね」
リップを塗り終わる。
「だからさ……教えてくれよ。お願い…あの時みたいに照れくさそうに叩いてくれよ」
と話すが彼女は動かない。
彼女は瞼を閉じて寝ているようだった。だけど、冷たい肌、硬直している筋肉を触れば分かる。
死化粧師をしていてこんなに辛いことは無かった。なんせ他人だったから。
「お願いだよ……お願いだ……」
膝から崩れ落ちる。大粒の涙が頬を伝い白い床に落ちる。どんなに好きな彼女が近くにいても、心は遠く離れた。
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僕が化粧を施した彼女は安らかな寝顔をしていて、愛おしい。
もう触れることは出来ない。
「彼女が言っていた『貴方に化粧をしてもらう』って言う願いはこんな形だけど叶ったね…」
真っ赤に腫れた目を彼女に向ける。
また、大粒の涙が流れる。
それが棺の硝子に落ちる。
何事もなく起きてきそうな寝顔の彼女に触れたくて、抱きしめたくて、逢いたくて。
鼻をすすり、嗚咽し、泣き崩れる。
「どうして君なんだ。家に君の好きなカツサンドを作って待ってるから……お願いだよ……お願いだ……」
彼女の親族に背中をさすられながら席に戻った。
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虚無感が残る家の中、1人には広すぎて、2人だと窮屈な家だった。
カツサンドと彼女の得意料理だった目玉焼きを《《2人分》》作り、机に置く。
彼女の卵焼きは何故かいつもしょっぱかった。
目玉焼きを口に運ぶ
「しょっぱくないや」
結局茜は料理の腕が上達しないまま行ってしまったよ。
風が家の中に入ってくる。
それが暖かく、包み込まれたように感じた。
「茜……」
枯れたと思っていた涙が湧き上がってくる。涙が目玉焼きに落ちる。
泣きながら目玉焼きを食べると
茜がいつも作っていた目玉焼きがそこにあった。
カツサンドと目玉焼きを食べ終わる。
すると彼女の声が聞こえる。
「どう?しょっぱかった?」
キッチンに目を向けるが誰もいない。
そして
もう一つのカツサンドに目をやる。
当たり前だが、減っていない。
それが茜がもう居なくなった事を強調していた。
「また貴女と――――あの日の続きをもう一度」