表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

9話

9話

一先ずまた電車に乗った。遠くへ行くためだ。この路線に乗っていれば海につく。海なら人気もないしあまり干渉してくる人は居ないだろうと踏んだ。警察は私たちを探しているらしい。ただの保護のためなのか、容疑者としてなのか。……マシロは捕まってしまうのだろうか。そしたらひとりぼっちになってしまうんだろう。それは嫌だ。不安でマシロの手を握る。マシロは冷え性だから手が冷たい。でも今はそれでも良かった。隣にいてくれると分かるから。

「ミツキ、海に行こう」

「うん、そのつもりだった」

「そっか、良かった」

 会話が途切れまた睡魔に襲われる。どうして電車というものはこんなにも眠気を誘うのだろうか……。

 

 今度は夢だとわかった。出ていったはずの母がいるから。昔のように3人でテーブルを囲んで料理を食べる。美味しかったはずだ。今は砂を噛んだように味がしない。夢の中だからだろうか。父と母が何かを話している。よく聞こえない。ふと辺りを見渡す。マシロはどこにいるのだろうか。いつも隣にいてくれたのに。テーブルを立ち、各部屋へ探しに行く。父の部屋、母の部屋、私の部屋、洗面所にお風呂、キッチン、ベランダ。そのどこにもマシロの姿はなかった。

 居間から母の呼び声がする。マシロのことを聞いてみよう。

「どうしたの、お母さん」

「今お父さんと話してたんだけどね、〜〜〜、〜〜するの。だからねミツキはどうしたいかなって」

「よく聞こえなかったところがあるから、もう1回聞いてもいい?」

「あ、ごめんね。あのね私たち離婚しようと思うの。ミツキはお父さんとお母さん、どっちについていきたい?」

「3人で暮らすのはできないの?」

「それは残念だけど無理だね」

「ならお父さんに着いてく」

「……そっか、うんわかったよ」


 そんなやり取りをした次の日に、母は家を出ていった。

 あれ?おかしい。マシロがどうするかを聞いていない。なんでマシロに聞かなかったんだろう。私と同じようにするって分かってたのかな。そういえば、お母さんは恋人を作って出ていったんじゃなかったっけ?まぁ、これは夢だから、整合性が取れていなくたって構わない。だってこれは夢だから。夢なのだから。


ふと目を覚ました。また眠っていたらしい。目の前に海が見える。ちょうど降りる駅だ。マシロの手を取り、足早におりる。ちょうど夕日の沈むタイミングでとても綺麗だ。

「海着いたね〜」

「結構近かったんだね」

「まず遊ぼ!」

「え?え、ちょっと待って!」

 マシロの手を引いて海へ飛び込んでいく。ひんやりとした水が心地よい。服が濡れることなんて気にせずに、水を掛け合い、じゃれ合い、疲れ果てるまで遊んだ。


 「つっかれたぁ〜!」

「そりゃ当然でしょ……。いきなり飛び込んでいくなんて何考えてるのさ」

「1回くらいやってみたいじゃない?だからやったの!」

 楽しかった。海で遊ぶのなんて初めてだったから。この2日で色んなことがあった。父が死んで、マシロと遊んで、警察に追われているらしい。濃い一日だったのは確かだろう。

「ね、ミツキ」

「なぁにマシロ」

「もう1人でも大丈夫?」

「マシロどっか行くの?」

「うーん、そろそろね。遠くに行かなきゃいけなくてさ」

「ずっと一緒には居られないの?」

「無理だね」

「……何があっても?」

「何があっても」

 マシロは私を置いていく。どこか遠い所へ行くらしい。私も連れて行って欲しい。でもそれは出来ないのだろう。私はまたひとりぼっちに戻るだけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ