表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5話

5話

 怒号が聞こえる。

酷く醜い罵詈雑言。ガラスの割れる音が、鈍くぶつかったような音が、小さく呻く声が聞こえる。あぁまたこれか、と目を瞑る。耳を塞いで自分の世界に閉じこもる。幸福だった頃のことを思い出す。楽しいことだけ考える。そうすればこの苦しさも紛れてくれる。私は微塵も痛い思いをしていないのに、聞いているだけで酷く胸が苦しくなる。私は何度も祈る。早く終わるようにと。何秒か何分か、何十分かもしれない程の時間を祈った。あれほど響いていた怒号が消え、辺りは静寂に包まれる。おもむろに顔を上げると、目の前に父親がいた。目を吊り上げ、怒りで肩を震わせている。今まで私に興味なんて示さなかったのに。なぜ今になって?そんなことを考えていたからか反応が遅れた。大きく冷たい手が首にかかる。

「〜!!〜〜〜!」

「!!!〜〜〜〜?〜〜〜〜!!」

 何を言っているのか分からない。なにか怒っているのはわかる。けれど聞こえない。耳鳴りのように音が遠くにある。でも、怒っているのならそうするべきだろう。

「ごめんなさい」そう呟く。何に対してかはわからない。父の機嫌を取るためなのか、マシロを庇えないことに対してなのか。私は呟き続ける。

「ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」

「ごめんなさい」「ごめんなさい」「ごめんなさい」

「〜!お..……だ……」

「……え?」

「お……の……いだ」

先程よりは聞こえるようになった。でも何を伝えたいかはわからない。父の言葉に集中する。感覚を研ぎ澄まして、耳を傾ける。

「おまえのせいだ」「おまえさえいなければ」

 その言葉はいつもマシロに対して言っているものだ。私はマシロでは無いのに。母とは似ても似つかない顔立ちで……顔立ちで?そうだっただろうか。私はどちらに似ているんだったか。父か母か。あぁいや、でも母に似ているのはマシロだ。だから私は父に似ている。そのはずだ。

 父は何を言っているのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ