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彼の声は聞こえない

 全員が犯人だった。

 と、いうのはどうもありきたりだ。それに誰も幸せにならない。

 ボクはそう結論付けることもできた。今回の一件は極端で、誰も悪くないか誰もが悪いのどちらかの答えを出さないといけなかった。

 だから、ボクは前者を選んだ。きっと彼もそれを望んでいたはずだ。

 答え合わせはできない。死人の声を聞くことはできないんだ。

 それでも今回の一件で彼ら彼女らがしていたように、ボクも勝手に彼のことを知ったかぶるとしたら。

 飛田雄太はピーターパンだった。

 屋上から飛び立った少年は無事にネバーランドに辿り着けたのだろうか。



 花咲千歳はみんなと仲良くはできないと言った。人には個性もあれば優劣もある。合う合わないがあるのは当然。むしろ付き合っていて害になる人物とは距離を置くべきだ。花咲千歳はそれを区別と言った。

 中西亨はただの遊びだと言った。未成年飲酒なんて言わないだけで誰もがやっている。自分達を注意する先生だってやっていたはずだ。友達なんだから金の貸し借りは珍しくない。殴ったり、軽口を言うのだって仲が良いからだ。中西亨はそれを友情だと言った。

 白鷺冬華は普通のことだと言った。セックスはスポーツなんてそこまでは言わないけど、肉体関係と好いた惚れたを一緒にするのは馬鹿馬鹿しい。挿れられただけで自分の何が変わると言うんだろう。白鷺冬華はそれを考えすぎだと言った。

 飛田咲良は子供っぽいと言った。みんな仲良く、先生や親の言うことは守る、五時の鐘がなったら帰る。彼女はそれを「子供の理想」だと言った。


 飛田雄太は――月見里絵麻は何も言わなかった。


 ボクはただ彼の見ていた世界に思いを馳せた。

 子供の理想を抱いていた彼に、この世界はどのように見えていたのだろう。

 中学校に上がったときのことを覚えている。そのとき、ボクはまだ自分のことを口に出して「ボク」と呼んでいた。自己紹介をしたとき、自分のことをボクと言ったとき、世界が急に冷たくなった。子供の世界では許されていたことが許されなくなった。ボクは温度を取り戻すために、私になった。嫌だなって思ったお腹の熱を覚えてる。

 ボクはボクなのに、私とボク、たったそれだけの違いなのに、話していることも、思っていることも同じなのに、どうして。

 その問いに返ってくる無機質な答えはいつも決まって同じだった。

 「もう子供じゃないんだから」

 母さんの声で、父さんの声で、咲良さんの声で、自分の声で。その答えはいつもボクに返ってくる。

 ボクは聞く。子供じゃないってなんなのって。

 「大人ってこと」

 大人って?

 そこで問答は終わる。子供じゃない、とか。大人になる、とか。そういうことを言う癖にみんな大人と子供の定義を持っていなかった。でも、そうやって答えてくれたらマシなほう。人によっては「そんなのどうでもいいじゃん」なんて言ってくる。きっと、そういう人はボクと同じ気持ちになんてなったことがないんだ。

 この世界の全てが嫌になったことがある。ボクの気持を分かる人なんていないんだって思った。ずっと子供のままでいたいって思った。勢い任せに死んでやろうとすら思った。世界中の大人すべてを呪った遺書を書いてやるって。

 でも、そんなのせいぜい1週間くらいの気持ちで、下校途中に見えた綺麗な夕焼けに目を取られて失くしてしまった。

 高校生になった今ではもう私って自己紹介するのにお腹は熱くならない。

 でもボクは心の中だけでもボクでいたい。きっと、ボクもピーターパンだった。ピーターウーマンかな。どっちでもいいけど。

 屋上から見下ろす夜の校庭は月面みたいだ。風が掃いた星空と遠くに見える街の明かりは、ボクを一人ぼっちの惑星に連れてきた。

 人が飛び降りているというのに、立ち入り禁止の立て看板だけで簡単に屋上にこれてしまった。

 ボクはフェンスを跨いだ。屋上のへりに腰掛ける。ボクは空を見上げた。たぶん、飛び降りる人は下は見ないと思う。

「イヤだよね」

 ボクは言った。感傷的なことをしてるってわかってるけど、そうしたかった。ボクってほんとたまに自分でもビックリするくらい気障なんだ。

 イヤに決まってるんだ。仲の良い人の悪口を聞くのも、大人に怒られそうなことをするのも、恋人の性事情を聴くのも嫌に決まってる。それを普通とか当たり前とか当然とか。酷いこと言うよな。それが彼を追い詰めていたなんて誰も思いやしなかった。「そんなことで」っていう人にはたぶん一生わからない。

 大人ってなんなのか。その答えは誰も教えてくれなかった。

 ボクはズルくなることだと思う。

 これからこの答えは変わっていくんだと思う。でも、いまだけはそう思っていたい。

 ピーターパンって呼び名を褒め言葉にしたいんだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『5月1日』


 さて、以上がボクの見解だけど、補足として。

 飛田雄太が気に病んでいたことは容疑者3人が抱えていた問題の他にもう一つあったと思う。

 実は咲良さんと飛田雄太を含めてあの5人は幼馴染だったらしい。小学校の頃は仲良しで、中学校の頃から少しづつ溝ができはじめたとか。高校に入学して、彼が自ら命を絶つ頃にはもうほとんど絶縁状態。4人がそれぞれを容疑者に上げる始末。彼が気にしていないはずもない。

 ボクの見解を4人に伝えたらどうなるだろう。各々が後悔するかもしれない。それかやっぱり「そんなことで」の一言で片づけられてしまうかもしれない。どっちにしてもあんまり意味がない。死者のことを慮るなんて自慰みたいなものっていうのは、白鷺冬華と同意見だ。

 だったら、もっと実利的にいこうじゃないか。

 飛田雄太が4人の仲を取り戻したいと願っていたのなら、それに準じてこそはじめて弔いに意味ができるはずだ。

 いがみ合う彼らが再び手を結ぶにはどうすればいいのか?

 ボクは共通の敵がいいと思う。

 たとえば、飛田雄太の自殺に彼ら以外の真犯人がいたらどうだろう。悪くないんじゃないかな。

 とかいって、実はもう始めちゃってるんだ。夜の校舎に忍び込んだ日に4人の下駄箱にこんなメッセージを記した紙を忍ばせたんだ。


 ピーターパンを殺したのはボクだ


 もちろん犯人役はボクだ。咲良さんがいるからすぐバレそうだけど、まぁ、本来はいない犯人を捜すわけだし、いつバラすかは概ねボクの匙加減だよね。

 彼らが見抜くか。ボクがバラすか。どっちかでボクまで彼らがたどり着いたとき、ボクははじめて自分の見解を口にしようと思う。もちろん、今日までに編集した音声データも使ってね。

 ボイスメモなんて言ってたけど、実はこれアリバイ作り的な側面もあるんだよね。本当に犯人にされたら困るからさ。


 と、いうわけで。この音声を聞いているってことは君たちは答えまでたどり着いたってことだよね。

 どうかな。少しはみんな仲良くなったかな?それともただのぬか喜びだった?

 改めて言うけど、これはただのボクの見解だよ。

 花咲千歳、中西亨、白鷺冬華、飛田咲良に続いて、5人目の証言だと思ってくれていい。

 最後に聞くよ。


 君たちは誰がピーターパンを殺したと思う?

 

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