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彼女はありえないと言った。

『探偵役 飛田咲良』

 

 こんにちは。月見里さん。珍しく早いのね。

 どうしてレコーダーを回しているのかしら?

 まさか、私が最後の容疑者だとでも言うつもり?

 ……そう。貴女はまだ兄は自殺だったと言うのね。兄は殺されたわけでも、誰に追い詰められたわけでもなく、自発的に死を選んだ、と。

 そうね。月見里さんが正しいわ。今回の事件に関しては私も客観的にはなれない。貴女に決めてもらうのがいいかもしれない。

 もっとも、わたしを納得させる推論を立てられたら、だけど。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 まず、私の意見としては月見里さんとは真反対よ。兄は何者かによって死に追い詰められた。

 理由は最初と変わらない。兄が自殺をする理由に見当がつかないから。

 そこで私は兄と近しい友人3人を容疑者として絞り込んだ。彼ら彼女らが兄の死についてそれぞれ思うところがあるのは知っていたから、貴女に聞き取りを頼んだ。

 そうして貴女から3人の聞き取りをした動画が送られてきた。

 確認だけど、意図的に動画を切ったり、発言を編集したりはしていない?

 そうよね。貴女に限ってそれはない。

 私としては貴女が捏造していることを願っていたのだけれど。

 正直に言えば、あの動画だけでは犯人には辿りつけなかった。探偵役が聞いて呆れるわ。

 3人の証言はそれぞれがそれぞれの動機を否定していた。この3日は3人の証言の真偽を確かめるために走り回ったわ。3人の証言に嘘はなかった。

 中西亨に半グレとの繋がりはなかった。夜の街に呑みに行っていたのは本当みたいだけど、兄と中西の間にわだかまりはなかった。金銭の貸し借りも3,000円ほど。犯行動機には不十分。兄が自殺する1日前に彼に電話をしていたのも履歴にあった。

 白鷺冬華が兄を自殺に追い込んだというのは、中西亨の主観が入り過ぎている。兄が彼女に恋心を抱いていたのは、妹の私からしても明らかだった。たしかに失恋はショックだろうけど、白鷺冬華の言うう通り自殺の理由としては薄いように思う。

 最後に花咲千歳。彼女を疑ったのは私だったわね。花咲千歳は兄に恋心を抱いていた。しかし、兄は白鷺冬華に恋をしていた。花咲千歳は中西亨と兄を遠ざけようとしていた。しかし、兄は最後まで中西亨との縁を切らなかった。花咲千歳が兄に抱いているのは歪んだ独占欲よ。その刺々しい性格からおよそ友人と呼べる人間のいない彼女は、兄に並々ならない感情を抱いていた。愛憎裏返ってというのは、よくある話でしょう?

 ……ええ。そうね。貴女の言う通り。それならまず凶行に及ぶ相手は白鷺冬華や中西亨であるべきでしょうね。あえて唯一の理解者である兄を殺す必要がない。

 そう、彼女は最後まで兄を愛していた。自殺の前夜、彼女は予備校の帰りに兄と会って、話をしたと言っていた。実はその現場を私は見ていた。私と花咲千歳の通う予備校は同じなの。

 その日は授業が終わる時間が彼女と一緒だった。けれど一緒に家に帰るほど彼女とは仲良くはない。なにせ彼女は兄への独占欲を妹である私にまで向けていたから。私は彼女が予備校を出た少しあとに、家路についたわ。そうして、件の公園で遠目にも良い雰囲気になっている2人の姿を見た。そのあと、手を繋いで歩き始めた2人の姿もね。

 彼女の人格と、あの公園で何を話しているのかは分からなかったから、彼女を容疑者の一人として挙げたけど、あの動画を見る限りだと私の嫌疑も外れているみたい。

 これで花咲千歳、中西亨、白鷺冬華、3名の容疑が晴れたわけではない。

 あの聞き取りでは真相が見えなかっただけで、これから調査を続ければ隠された事実が見えてくるかもしれない。

 けれど、逆に3人からはこれ以上の真相は出てこないのかもしれない。

 私はそっちの可能性の方が高いとすら思っている。

 なぜかって?

 私は貴女を信頼しているからよ。月見里さん。

 貴女は本当に不思議な人だわ。特別な話術を持っているようには見えないのに、どうしてか人は貴女に全てをさらけ出して話してしまう。

 探偵役である私が推理で犯人を追い詰めるまでもなく、貴女は犯人に自白をさせてしまう。

 「聞くだけ」なんて謙遜しているけれど、それは探偵泣かせの言葉だわ。

 今回の一件も形式上、疑ってはいるけれど、内心ではこれ以上の事実は出てこないと思っている。

 3人は知りえる情報を嘘偽りなく全て話した。その上で犯人はいなかった。私のなかではそんな結論が出かけている。

 けれど、だとしたら兄はなぜ死んだの?

 全員の潔白が証明されれば、その謎はより深くなる。

 私は疑わなくてはならない。だって、それはありえない。ありえてはいけない。

 月見里さんを持っても真実を話さなかった誰かがいる?

 3人が結託して兄の死に関する重要な事実を隠している?

 3人とは別に第4、第5の容疑者がいる?

 他殺にしても、自殺にしても、兄は死ななくてはならない理由があるはずだ。

 兄を死に追いやった誰かがいないとおかしい。

 けれど、私はいずれの疑惑も信じきれずにいる。

 ありえないと断じたことこそが真実のように思っている。

 私はそれを否定するために疑わなくてはならない。

 ありえない。ありえてはいけないんだ。


 何の理由もなく自殺をするなんて。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 兄がどんな人だったか?

 なぜそんなことを?それよりも次は貴女の見解を聞かせて欲しいのだけれど。

 そう。月見里さんの見解に関わることなのね。わかったわ。

 優しい人だったわ。近所の子供たちで遊ぶ時はいつも兄がリーダーだった。誰かが仲間外れにならないように、ずっと気にかけていたのを覚えているわ。正義感も強くて、いじめは絶対に許さない人だった。モテてはいたのだれど、純粋で一途だったから白鷺冬華以外の女子に言い寄られても、彼女への想いを貫いていたわね。

 兄の悪いところ?

 亡くなった人への悪口なんて趣味が良くないわ。

 わかってる。他意はないんでしょう?

 ……兄は少し子供っぽいところがあったわ。夢見がちとも言えるかしら。それが兄の魅力でもあったのだけれど、少しだけ現実を見れていないところがあった。

 どういうところかと聞かれると難しいわ。なんて言えばいいのかしらね。

 そうね。短所と長所は表裏一体と言うのなら、その通りなのかもしれない。

 みんな仲良くというのは理想ではあるけど、現実的ではなしでしょう?それでも小学校低学年くらいまではみんなその理想に忠実だった。年代が上がるにつれて、私たちはそれがただの理想だということに気づいていく。仲良しでいれる人といれない人がいるっていうことに気づく。兄は気づかなかった。あの人は文字通り誰とでも仲良くできる人だったから。周りも自分みたいに誰とでも仲良くできると思っていた節がある。

 正義感も悪く言えばその「子供の理想」に基づいたものだった。みんな仲良く、先生や親の言うことは守る、五時の鐘がなったら帰る。大袈裟にいえばそんな感じだったと思う。

 同世代の人間からしたら鬱陶しいと思う。私も兄のそういうところはウザいって思ってた。ただ、それでも兄は皆の中心にいた。みんなそんな兄が好きだったんだ。


 月見里さん?

 ええ、もちろんそのキャラクターのことは知っているけれど。それがこの事件となんの関係が?

 どんな印象って。永遠の少年でしょう?

 ねぇ、どうしたの月見里さん。

 急にピーターパンの話なんてして。

 

 



 

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