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彼女はなにも分からないと言った。

『容疑者C 白鷺冬華』


 えっと。最初に言った通り、わたしはこの事件のことはよくわかりません。だから、あんまり力になれないかも……。

 だ、誰かが雄太くんを殺した?そんなこと考えたくもないです。

 雄太くんが誰かに追い詰められていた?それも心当たりがないです。

 え?わたし…ですか?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 誓って、わたしは雄太くんにそんなことしてません。雄太くんのためならどんなことでもできるくらい、私は雄太くんのことが好きだったんです。

 じゃあどうして他の男の人と肉体関係を持っていた?

 え、なに言ってるんですか?

 それが雄太くんの自殺と何の関係があるんですか?

 もう高校3年生ですよ?男女のそういう関係の一つや二つあってもおかしくないと思いますけど。

 付き合ってる人?え、なんで恋バナみたいになってるんですか?

 いません。そういうの面倒くさいじゃないですか。恋なんて遊びみたいなものでしょう?人の気持ちなんて移ろうものなのに、なんで1人に縛り付けられないといけないんですかね。

 まぁ、わたしはアイドルなので、こういうこと公に言っちゃダメなんですけどね。

 たまにいますよね。経験人数は少ない方が良くて、セフレなんてもってのほかで、常に貴方のことを考えてないと、ダメな男の人。

 雄太くんとも唯一そこだけは合わなかったなぁ。

 一回だけ雄太くんに見られたことあるんですよ。ヤッてるの。

 そしたら雄太くん真っ赤になっちゃって。可愛いなぁって思ったんです。

 次の日、わたしがそのことを言うと、また真っ赤になって。ついからかっちゃったんですよね。

 え?それが原因で自殺?

 あ

 あは

 あははははははははっ!

 誰ですか、そんなこと言った人?あははっ。絶対に童貞でしょ!まさか貴女?ううん。それはない。月見里さん綺麗だもん。言うなら千歳さんかな?

 そんなわけないでしょ。童貞をからかわれて自殺って。ちょっと面白すぎますね。雄太くんへの侮辱と言ってもいいかも。

 雄太くんはわたしのそういうところも含めて、受け止めてくれてたんです。

 証拠にそのことがあった後も、変わった様子なくわたしに接してくれてましたから。

 後ろめたさ?うーん。ないことはないですよ。そういうのは派手じゃない方が良いっていう価値観は知ってます。

 なんでそんな質問するの?下品な女の子だと思った?信じてほしいんですけど、こんな明け透けに自分の性事情を人に話したことないです。月見里さんだけ。不思議です。

 でも、女の子って隠してるだけでこのくらいのことはあると思うんです……一部を除いて、ですけど。

 ね、月見里さん?

 あはっ。可愛い。これもまたカミングアウトになるんですけど、わたし、女の子もいけますよ。

 なぜ雄太くんとは関係を持たなかった?

 あー。えっと、前提として、わたしはいつでもウェルカムでしたよ。雄太くんがその気ならいつでも、わたしの身体をあげる準備はできてました。うん。そうですね。雄太くんとなら付き合ってもよかったかも。

 前提その2。わたしは自分から手を出すことはありません。はしたないですからね。あ、でも、一回、雄太くんをからかった拍子に彼を誘ったことはあったかも。……ま、のってはくれなかったんですけどね。

 奥手すぎるんですよ、雄太くん。それともわたしのこと好きじゃなかったのかな?よくある妹的な存在だった?

 あ、ごめんなさい。そうですね。雄太くんとそういう関係にならなかったのは、彼が奥手だったっていうのと、あとはやっぱり千歳さんの存在が大きいかな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 最初にも言った通り、わたしは雄太くんが自殺しちゃった理由はわかりません。だからといって、誰かが雄太くんを殺したと思うわけでもありません。

 雄太くんは死んだ。その事実があるだけです。

 冷たいと思いますか?

 ありがとう。月見里さんは良い人ですね。

 でも、冷たいというのは間違ってないのかもしれません。

 雄太くんがいなくなちゃったのは、もちろん悲しいです。心にぽっかり穴が空いたみたい。一人で通う通学路にふと彼の名前を呼んでしまうときがあるんです。その度に涙が零れそうになります。けど、それは彼を憐れんでのものじゃないです。ただ寂しくて涙が流れそうになるんです。

 わたし、小さい頃からずっと思っていることがあって。どれだけ親しくしてても他人のことはわからないって。

 言葉の裏に隠れている意味なんて、それを言った本人だってわからないことがあると思うんです。きっと、きちんと言葉にできる感情の方が少なくて。わたしたちはそんなものを言葉以外の方法で伝えようとするけど、きちんと伝わってるのかもわからない。それさえも諦めてしまったら、隠してしまったら、わたしたちは一体どうやって彼の気持を知ることができたというんでしょう。

 死んだ彼の記憶を探って、そこに意味を見出しても、そんなの一人芝居じゃないですか。

 わたしたちは彼が死んでからでしか、彼の行動や言動を振り返ろうとしなかったのに。生きているうちは誰も雄太くんの変わった様子なんて口にしなかったのに。死んだ途端に彼のすべてに意味をつけようとするなんて、ああ、なんて馬鹿らしい。

 ……それでも、

 雄太くんの死の意味を知りたいわたしは、心底愚か者なのでしょう。

 今まであまりにも人に無関心に生きてきたわたしには、犯人を恨む正義感がありません。雄太くんを憐れむ優しさも持ち合わせていません。そんな冷たいわたしはとてもじゃないけど、雄太くんが死んだわけに辿り着けそうにありません。

 お願いします。月見里さん。例えどんな真相だったとしても、わたしに雄太くんの死んだわけを教えてください。

  わたしは彼のために涙を流したいのです。


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