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彼女は彼が殺したと言った

『容疑者A 花咲千歳 事件の容疑者について』


 中西亨が雄太を殺したんだ。

 いいえ。正確には中西じゃないかもしれない。けれど、中西が絡んでいるのは間違いない。

 中西は不良だ。毎日のように夜遊びして、補導されて、生徒指導に呼ばれるのを何度も見た。

 あの男が半グレのグループとつるんでるのは、3年の間では有名な話なんだよ。

 去年の10月にあった宝石店への強盗致死事件。それを首謀したのが中西の所属するグループだって言われてる。証拠にその事件があった翌日、中西は学校を休んでた。なんでも警察からの調査されたんだけど、下っ端も下っ端だったからバレずに見逃されたんだとか。

 馬鹿みたいだよね。高校生にもなって、未だに悪いのがカッコいいって思ってるって。煙草吸ったり、お酒飲んだり、危ないことしたり、人に迷惑かかってるって分かんないのかな。分かってて、やってるなら救いようがない。

 でも、別にいい。あの人たちはあの人たちで勝手に死んでいけばいい。この高校を出れば私の人生には一生関わってこない底辺の人間だと思ってるから。

 なのに、それなのに、雄太はあんな奴にも優しくするんだ。

 中西は学校で浮いてた。あの男は自分が怖がられてるって悦に浸ってたんだろうけど、単純に嫌われてたんだよ。たまに寂しくなるのかクラスの大人しそうな子にちょっかいかけて、その反応みて喜んでる。体育会系のいかにも強そうな人には何もしない癖に。あの男は大物ぶってふんぞり返ってるけど、三枚目の小心者だってみんなわかってる。

 雄太だけが中西に友達みたいに接してあげてた。雄太は優しいから、私が中西と絡むのは止めておいた方がいいって言うと怒るんだ。「仲間外れはよくない」って。

 私はわかってほしかった。これは「仲間外れ」じゃなくて、みんな当たり前にしてる「区別」なんだ。関わってもロクなことにならない人間とは縁を切った方が自分のため。一人で孤立している人にはそれなりの理由があって、みんな仲良しなんて、道徳の教科書のなかにしか存在しない。ああいう奴らにならないためには賢く生きないといけない。

 そう言っても、雄太には伝わらなかった。後悔してるよ。もっと強く、もっと早く「中西と関わるのは止めろ」って言うべきだった。もし、そうしていれば雄太は……。

 ごめんなさい。話が逸れた。

 雄太は中西を本当に友達だと思ってた。でも、あの男は雄太のことを都合のいいパシリくらいにしか思ってなかったんだと思う。

 中西はよく雄太にお金をせびってた。雄太を叩いたり、怒鳴ったりしてるのも見たことがある。

 ある日、雄太と一緒に登校してたんだけど、目に隈ができてたんだ。あんまりにもぼやっとしてたから聞いたの。そしたら、昨晩、中西と遅くまで遊んでたって言った。はじめてお酒も飲んだし、煙草も吸ったって。知らない女の子たちと連絡先も交換したって。そう言う雄太の顔はちっとも楽しそうじゃなかった。

 そのときも私は中西と縁を切るように強く言った。けど、雄太はなにも答えてくれなかった。

 そして、3月24日。予備校の帰りだから22時を少し回ったくらいだと思う。私の家のすぐそばの公園で雄太と中西が言い合いをしていたの。結構な剣幕だった。雄太の怒鳴り声なんて聞いたことがなかったから、驚いて何を言っているのかよく聞き取れなかったのだけれど、「戻ろう」とか「止めよう」とかそんなことを言っていた気がする。

 中西は雄太を突き飛ばしてどっかへ走っていった。雄太はその公園で立ち尽くしてた。私は居ても立っても居られなかった。

 雄太に声をかけたの。雄太は憑き物がとれたみたいな顔をしてた。それで言ったんだ。


「千歳が正しかった。もっと君の言うことをちゃんと聞いておくべきだった」


 やっと雄太に私の想いが伝わったの。あの言い合いで雄太は中西と縁を切ったんだと思う。

 勢いに任せて雄太のことが好きだって告白しようとした。でも最後のところで私は臆病だった。またいつか、春休が終わってからでいいって思ってしまったの。

 いつかなんて来ないし、彼の春休が終わることもなかった。

 あのとき告白すればよかった、なんてそんなの小さすぎる後悔だった。

 3月27日。中西亨が所属してたとされる半グレグループが一斉検挙された。大麻の栽培をしてたらしい。中西は例の如く逮捕されなかったみたいだった。

 逮捕の決め手となったのは、密告者の存在だった。

 そのニュースを見たとき、少しだけ嫌な予感はしてた。雄太の正義感は限度を知らない子供みたいなときがあるから。

 あの時、予備校の帰りに見た中西と雄太の喧嘩はもしかして――。

 そんな矢先の出来事だったんだ。3月31日。雄太が自殺したっていうのは。

 私は後悔した。もっと早く、もっと強く、雄太に言うべきだった。あの夜はもう遅かったんだ。

 月見里さん。私の目から見て、中西亨には十分な動機がある。

 雄太は行き過ぎた正義感から密告をした。それに復讐する形で中西亨あるいは、そのグループが雄太を自殺に見せかけて殺害した。首尾の前後左右はわからないけれど、筋書きは概ね間違っていないはず。

 中西亨が雄太を殺したんだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 私の知っていることは全て話した。これで終わり?


 うん。いいよ。何でも聞いて。


 不思議だね。月見里さんには何でも話せる気がする。


 は?私が雄太を追い込んでいた?どうして?意味がわからない。

 「飛田雄太の言動や行動を幼稚と切り捨てて、彼の人格を否定した」?

 誰かが私をそう言ってたんだね。

 はぁ。私と雄太の関係を知らない人にはそう見えたのかな?

 雄太は優しいけど、価値観が子供っぽいところがあった。「仲間外れ」と「区別」もそうだけど、理想と現実の違いがわかっていなかったの。

 極端な例えになるけれど、月見里さんもお友達が「海賊王になる」って本気で言いだしたら止めるでしょう?

 それと同じ。他の人と違ったら、それを教えてあげるのが優しさだと私は思う。

 ……でも、たしかに、2年生の後半になってから雄太のそういう言動が増えた気がする。当然、比例して私が注意する回数も増えていたとは思う。

 だからといって、それが雄太を追い詰めていたとは思えない。小さい頃から私たちはそういう関係だった。私がいつも雄太を叱ってあげてたんだ。他人からみれば、ちょっと厳しいように映るかもしれないけど、雄太がそれを苦にしていたわけがない。私が雄太のことを一番よく知っているんだ。

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