だれがピーターパンを殺したのか?
飛田雄太は自殺した。
学校の屋上から飛び降りたそうだ。
ボクにとってもそれは少なからずインパクトのある事件だった。なにせ友達の兄が自殺したんだ。お葬式にお呼ばれするほど、彼とは親しくなかったけれど、彼の笑顔を思い出すと胸がチクリとした。
しかし、まぁ、ボクと彼の関係は友達の兄と妹の友達以外のなにものでもないわけで。
「お願い、月見里さん。兄を殺した犯人を見つけて」
雄太氏の妹である――ボクの友人である彼女にそう言われなければ、その事件のことなんて忘れていた。
あ、あー。これはテスト、これはテスト。ちゃんと音声入ってるかな?
テストがてらに自己紹介でもしようかな。
こんにちは。ボクは月見里っていいます。声にすれば「やまなし」っていうんだけど、文字にすると「つきみさと」って読む人がほとんどだよね。珍しい苗字の困ったところは百均でハンコが見つからないに代表されて本当に色々あるんだけど、一旦置いといて。
ボクのことについて覚えて欲しいことは概ね2つ。
1つはボクは女の子です。
ボクなんて言うから、昔はよく男の子に間違われたんだよね。まぁでも昔の話だよ。流石に高校生1年生にもなって人前でボクなんて言わないよ。しとやかに私はJK生活を送っていますの。
ボクっていう1人称が好きなんだよね。私とか俺とかって、なんか優雅じゃないよね。感覚的な話なんだけどさ。頭のなかで考え事をするときとか、一人でいるときはボクなんだ。
で、2つめ。なんでも、ボクはすごい聞き上手らしいんだ。
……「らしい」っていうのは、自称したくないからだよ。なんか馬鹿っぽくない?自分で自分のこと聞き上手だっていうの。なんかその時点でコイツにはあんまり話したくないなって思っちゃうよね。
自称したくないだけで心の中では思ってるんだろ?とか、意地悪な事は言わないでほしいな。他人から言われるだけで、僕は本当に自分のことをそう思ったことはないんだ。本当だよ。本当なんだから。
自分の本当に優れているところって自分じゃ分からなくない?努力して手に入れたものなら、そりゃ自負もするんだろうけどさ。
まぁ、そんなボクの能力のおかげで、今回わざわざスマホのレコーディング機能の動作チェックをしているわけなんだけど。
うん。音声は無事に入っていたみたい。
テストはさっきので終わりでもいいんだけど、中途半端なところで話が切れてたからね。
現状の整理も含めて、話しながら今回の経緯を整理していくよ。ボクって文字を書くのが苦てというか嫌いだからね。こうやって話して、それを録音するって方が性にあってるのかもしれないって思ったんだ。そういう意味ではこれもテストだね。
事件が起こったのは昨年の3月1日。ボクたち桜岡中学の卒業を翌日に控えた日だった。
飛田雄太氏が彼の通う間木平高校の屋上から飛び降り自殺をした。
あの時は、それなりにニュースになったね。見ていて気持ちの良いものではなかったから、ボクは意図してそのニュースを避けていたんだけど。
けれど、ワイドナショーからは目を逸らせても、友人であり雄太氏の妹であった咲良さんには向き合わなくてはいけなかった。
小学校の6年間から、中学の3年間、そうして高校初年度のクラスさえずっと同じの友人。
驚いたことに彼女は卒業式に出席した。元から強い少女っていうのは知っていたけど、流石にそのときばかりは驚いた。だって彼女は人一倍、お兄さんのことが好きな子でもあったから。
卒業式が終わって、最後のHRが終わって、群がる記者や野次馬を放って、彼女はボクを音楽室に呼び出した。そこで言われたんだ。
「お願い、月見里さん。兄を殺した犯人を見つけて」
と。思うに、彼女はボクにそれを伝えるために卒業式に来たんだ。
咲良さんの涙なんて久しぶりに見た。ボクは無下に断れなかったけど、事実は伝えなくてはならない。ときに彼女はボクを買いかぶるときがあるから。
「私にできるのは、聞くことだけだよ」
そう言ったのを覚えてる。我ながら無情な奴だと思う。けれど、応えられない期待はさせないのがお互いのためだろう?
ボクは探偵でもなければ、警察でもない。IQも110くらい。自身を平凡な女子と評すほど卑屈でもないけど、少なくともそういう探偵役にはなれないことは知っている。
そう。だから、ボクにできることと言ったら聞くことだけなんだ。
「十分よ。ありがとう」
咲良さんはその言葉がボクにできる最大限の協力であることを知っていた。
さて。いまの話で咲良さんはおかしなことを言っていたね。
うん、なんか探偵っぽい台詞だ。でも、別にそんな鬼の首を取ったようなアレでもないんだけどね。
――お願い、月見里さん。兄を殺した犯人を見つけて。
警察が出した答えは自殺だ。だというのに、咲良さんは雄太氏が他殺であることを前提にしたように言ったんだ。
それは強ち、最愛の兄を失くした少女の妄言というわけでもないんだ。
飛田雄太氏の自殺には争点がある。
まず彼の遺書は発見されていない。これはボクがこの音声を録音している5月10日現在も相変わらずの状況だ。
次に、雄太氏の自殺する理由がない。
雄太氏は所謂、クラスの人気者で、いつも明るくいじめられているというようなことはなかった。それはボクも知るところだった。生前の雄太氏はいつも6~7人の幼馴染のグループで固まって、彼はその中心にいた。
家族である咲良さんも自殺をした日まで、雄太氏にまったく変わった様子がなかったという。学校側も似たような主張をしている。「彼の自殺はまったく心当たりがない」と。
以上の2点から、他殺説は咲良さんを含め一部の人間から支持されていた。
ボクとしては可能性としてなくはないけど、絶対にそうだと言い切れはしないって感じだ。だってさ、誰にも相談できないから彼は自殺を選んだわけで、その人のことを全て知ってるというのは些か高慢な気がするんだ。
ただ、彼ら彼女らだって、そのくらいの一般論は知っているはずだ。その上で「飛田雄太が自殺するのはありえない」と言っているんだろう。
この他殺説は彼と近しかった人間が信じている。
自殺はボクみたいにやや距離のある人間が決めつけている。
近すぎて見えないのか、遠すぎてわからないのか。
距離のあるボクは近寄らなくてはいけないね。飛田雄太という人物が見える位置まで。
先日、ようやく容疑者が絞れたらしい。そして、その人達も雄太氏を殺した犯人を捜すのに全面的に協力してくれるそうだ。
もちろん容疑者を絞り込んだのも、彼らに協力を仰いだのも、咲良さんだ。
まったく末恐ろしい人だよ。探偵っていうのは、ボクじゃなくて彼女みたいな人が適任だよね。
というか、実際に探偵役は彼女だ。ボクと違って明晰な頭脳を持つ彼女が最後に、この事件における犯人を見つけ出す。
ボクがするのはその手助けだ。
何度も繰り返すようだけど、ボクにできるのは聞くことだけなんだ。
誰が彼を殺したのか?ってね。